忍足 侑士

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「なぁ、せんせ?」



彼女は俺が舌足らずに"せんせ"と呼ぶのを、可愛いと言った。
そして薄紅に彩られた唇が、俺の名を奏でるのだ。



『なぁに、忍足くん』



彼女はとても綺麗に笑う。
細くしなやかな白い指が、俺の髪を撫で、そっと離れる。



「せんせ」

『うん、どうしたの?』

「好きや」

『私も忍足くんのこと、好きよ?』



彼女は知っている。
知ってて、知っていて、彼女は変わりなく笑う。



「好きやで」

『ありがとう』



トン、とまとめた書類をカバンに詰める。



誰もいない準備室。
甘く香る彼女の香水。
スルリと逃げる漆黒の髪。



思わず、手が伸びた。



『っ忍足くん!』

「なんや、名前で呼んではくれへんの?」

『おした――んっ』

「侑士、やろ・・・せんせ?」



言い聞かせるように、口付けた。
その時の俺は、自分でも酷く妖艶に笑っていたと思う。
彼女が、ビクリと肩を揺すった。



「なぁ?名前、呼んでや」

『あ・・・』

「侑士、や。言えるやろ、せんせ?」



もう少し。
彼女の黒髪を撫で上げ、耳元でそっと呟いた。



もう、少し。



「せんせが愛してんのは、誰なん?」




ひだりくすりゆび、あなたを縛る




『ゆ、し・・・・』



END

(解けないのなら、俺が解いたるよ・・・せんせ?)




20070602

プライベートレッスン様へ提出
西さま、ありがとうございました!
(7/31(?)企画閉幕)




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