「おいで 総悟」
頭をよぎるのは
唯、
あの人の
笑顔と
優しい声
「あー
もう。やめろババア」
鼻につくきつい人工的な創られた華の匂いと、鮮やかな紅と厚い粉や墨を纏った女に投げ掛けると。
「………ばっ…!?
何アンタ!何よババアって!?」
どこか取り込まれたかの様な眼をしていた女は、ハッとした表情を造った後、こちらに不快感を露にした顔と声で言葉を返してきた。
「ババアにババアっつって何が悪いんでィ。ババアにババアって言わなかったら誰にババアって言やーいぃ…」
「ババアババアうるっさいっての!!
こんな短い間にババアって九回も出てるわよ!」
「今ので十回目でさァ。」
胸の辺りに被さっていた、女の身体の重みから開放される。
「うるっさい!!!
……はぁっ?なに?!アンタの方から誘ってきたくせにさ?!」
みるみると女の表情が苛立ちに支配されていくのが良く分かった。
右腕に置かれた女の指先に少し力が入ってくる。腕に徐々に食い込む。
「どーだったっけなァ」
「はぁ?何アンタ!ふざけてんじゃないわよ糞餓鬼!!!」
支配、されきった様で。
側にあった白地の布に包まれた枕が左肩辺りに当たって落ちた。
「…痛てェ。
まァ。俺ァただ、眠てェっつっただけだけどな。
それをアンタが枕になってくれと勘違いして受け取っただけじゃねーかィ」
「はぁぁぁ?!
何言ってるのアンタ?!年上は好きだーとか言ったのアンタじゃん!!自分は誘ってないって言いたい訳!?何?!」
「年下の男が好きだーとか言い出してみっともねー声出して寄ってきたのはアンタですけどねィ」
「〜〜!! …いちいちムカつく餓鬼ね!…大体っ!ババアババアってあたしまだ25よ!!今が一番妖艶で美しいんだから!エロくて若いの!解る!?」
「もうちょっと若いババアが好きなんでさァ」
「〜〜〜っ!!!
……餓鬼ねっ!!つまんない餓鬼!…あー良かったっ、こんな糞餓鬼と一線を越える様な血迷った真似しなくて!」
乱暴に布団から離れた女は、
先刻自ら脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ背中と敵意をこちらに向けて。
「…女馬鹿にすんのも大概にしなさいよ。
糞餓鬼の分際で」
「してませんぜィ。
馬鹿にしてんのはアンタだけでさァ。
アンタ、他人を軽く見てるから軽く見られるんでさァ」
特に
癇に障ったのだろうか。
女が紅潮した顔で振り返る。
「ハァ!?しょんべん臭い餓鬼なんかに言われたくないっつーの!
…ふんっ、馬っ鹿じゃないの!?
こんな時代に帯刀なんてして、粋がってんじゃないわよ!」
襟元を整えていた手で綺麗に手入れされた壁を、思いきり叩く。
「ババアこそ。
その着物の丈はもう無理があるんじゃねーのかィ」
間髪入れず女の平手打ちが左頬を打った。
少々遅れて鈍い痛みが、
頬に伝った。