あっ、と胸の飾りを摘まれた雲雀が声を上げ、そして獄寺たちに恥ずかしそうな視線を向けては綱吉を睨む。ズボンにまで手をかけだした綱吉に、後で着てあげるから、君にだけ特別に見せたいの、などと必死にいじらしい言葉を放つ雲雀の精一杯さには何故か胸が熱くなる。お気に入りも大変なんですね、とそれは同情からのものだが。
へえ、と満更でもない顔をして雲雀の上から退く綱吉にも何だか涙。(意外と騙されやすいのかも知れない。)

「つーかお前ら!普通はヒバリじゃなくて十代目にプレゼントを差し上げるべきだろ!」

あ、出たな十代目ラブ病。俺はちゃんと十代目にプレゼントを用意してきましたからね!と満面の笑みを浮かべ、獄寺がソファーの近くに置いてあった包みを綱吉に渡す。それ獄寺のだったのかー…と山本が苦笑いしながら、実はさっきソファーに近付いた時に間違って蹴飛ばしてしまった事は絶対に言えないなと思い、へらりと笑う。実はひっそりと見ていた骸が手を口元に当ててクフ、と小さく吹いた。

「十代目のために心を込めて、じっくりと編んだんです。」

気に入って頂ければ嬉しいんですが。そう言って取り出したのは白いマフラーで、そこまでは良かったのだがよく見ると真ん中に沢田綱吉ラブと赤い糸で編み込まれていた。
意外と器用なのな。ていうか沢田綱吉にプレゼントするのにそのセリフは間違ってませんか。色々ツッコミたい所はあるが本人が幸せそうなのできっと何も問題は無いはず。マフラーを手に取った綱吉がにぃっと笑い、うれしいよごくでら、(棒読み。)と言うと獄寺の瞳はそれはもうキラキラと輝いた。何かのプレイに使えそうだな、と黒い笑みを浮かべる綱吉の言葉は聞こえてはいないらしい。


「…あと、これはお前にやる。」

おら、と獄寺が乱暴に雲雀に突き付けたのはクリスマスシーズンによく見る、赤い長靴のお菓子の詰め合わせだった。町内の福引きで当たっただけだからな、とぶっきらぼうに言いながらも視線を泳がせる獄寺の姿はものすごく不自然だ。
何だかんだで君も雲雀恭弥にプレゼントしてるんじゃないですかと言う骸に、獄寺が黙れ!と顔を赤くしながら叫んだ。


「ランボさんもあるんだもんねー。」
「はあ?」
「え?」

肉を頬張っていたランボが突然言い出した言葉に、獄寺や骸が揃って気の抜けた声を出した。だってそうだろう。プレゼントは貰う側の年のランボ(しかし誰もくれないが。)が、このアホな性格的にもまさか誰かのために何かを用意するだなんて考えられない。またみんなが盛り上がってる(?)から、おいてきぼりにされないように嘘でも言ってるんだろうと獄寺がランボの頭を思いきりぶん殴る。

「冗談は存在だけにしろアホ牛が!」
「痛いー!」
「ちょっ…」

わあわあ泣き出したランボがどさくさに紛れ雲雀に抱き着く。うるさいんだけどと言いながらも仕方ないといった顔でランボの頭をゆっくりと撫でる雲雀の姿に、山本がマリア様みてーだなと寝ぼけた事を言い出すのにはさすがの骸も返す言葉が見付からなかった。


「これ…」

得意のが、ま、ん。をしながらランボが差し出したのはどこにでもあるビー玉だった。やっぱガキだなと獄寺は鼻で笑ったが、雲雀はしばらく考えた後にそれを優しく受け取った。君は赤ん坊と仲が良いからねとよく分からない理由を付ける雲雀に、仲良くはないだろと綱吉が間髪入れずにドスの効いた声を響かせ、ランボの首根っこをぐいっと掴んでは放り投げる。リボーンの話が出た事で機嫌を損ねたらしく、据わらせた目を雲雀へと向けている。
何だか波乱の予感を察知した骸が避難でもしておきましょうかと、ひっそり窓を開けると外の冷気が部屋に流れ込む。


「何だ骸、野外プレイでもしたいのか?」

何でそうなりますか。ていうかバレバレですか。
怒りの矛先が自分に向いてしまいそうで、背筋を震わせた骸が換気ですよと引き攣り笑いをしながら外へと視線を向けた。


「…あ、雪ですね。」
「雪?」

その言葉に一同が窓へと視線を移した。ちらちらと舞うように白い綿のような雪がいくつも落ちてくる様は綺麗で、さっきまでの賑やかさやドス黒い雰囲気も忘れて見入ってしまう。
ホワイトクリスマスかと呟いた綱吉に、獄寺がロマンチックですね十代目と言いながらさりげなく隣に立っては頬を微かに染めていた。(何で。)

「……。」

みんなが窓の外へ注目する中、雲雀だけが一人考え事をするようにぼんやりとしていた。ポケットからばれないように取り出した金色の小さなプレートのついたネックレスを眺めては、それと同じ色の髪の毛を揺らす人物を思い出す。


“Gemma”


プレートに刻まれた文字を見ながら、意味は何だろうと考える。
『俺から見た恭弥の存在そのものだよ。』
与えられたヒントもさっぱり分からない。


「さーて、そろそろ片付けるか!」
「何だか最後に心が洗われたようですね。」
「てめーは明日にゃまた汚れてるだろーよ。」
「ははは!それは言えてるな!」

時間的にもお開きムードになり、笹川が皿を次々に片付けて行く。手に持ったフォークとスプーンで攻防を繰り広げる骸と獄寺に、そんな二人を見ながら笑う山本といつの間にか眠ってしまっているランボ。これから始まる静かな夜に小さく息を吐く雲雀と、それを黙って見ていた綱吉。それぞれに思う事は違うだろうが、それぞれのクリスマスは終わって行く。
来年も、そしてその次のクリスマスもこうやって。



『メリークリスマス』




























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