一緒にいられる時間は決まってるから、ギリギリまで恭弥は離さない。
今日は5月5日。前日の夜から家に泊まっていた雲雀を抱きしめながらのディーノの思いは朝の目覚めと共に脆くも崩れ去ってしまった。
隣に眠っていた雲雀を抱きしめようと伸ばした腕の中に収まった温かい体。ぎゅっと強く抱き、可愛い雲雀の感触を存分に楽しもうと寝ぼけ半分ながらすりすりと頬擦りをして感じたのは違和感だった。何かが違う。何だかやたらと固いと言うかゴツゴツしていて、香りもいつもと違う。何よりこんなに大きかったか?


「も〜、意外と大胆なんだから〜。」
「うわああああ!?」

聞こえた声に一気に意識を覚醒させたディーノがものすごい勢いで跳び起きてベッドから抜け出す。照れちゃうわ、と頬をぽっと赤くする一人のオカマを凝視しながら、今の出来事を思い出してがくりと力無く床に膝を着いた。
【ディーノは心に深い傷を負った!】(RPGの字幕風にどうぞ。)

「お前は確か…無愛離愛の…」
「そ、ルッスーリア姉さんよ♪」

姉さん。(間違ってる。)
何でこいつが俺の部屋に?そしてベッドの中に?ていうか何か寒いような気がする…

「って何で壁に穴が開いてんだよ!?」
「店長が入るために決まってるわ。」
「ドア!ドアの使い方くらい知ってろ!つーか恭弥どこ行った!?」

ザンザスに連れ去られたら何されるか分からない!いたいけな(そうでもない。)少年相手に卑猥な事をするかも知れない!と自分の事を棚に上げたディーノが慌てて部屋から出ようとするのを、やれやれと溜息を吐いたルッスーリアが落ち着きなさいと静止する。
そんなに心配しなくても隣にいるわよと壁一つ向こうの部屋を指差し、はぁ?と間の抜けた声を出したディーノがあまり使われる事のない隣の第2寝室へ急いで向かった。
乱暴にドアを開け、無事か恭弥!と叫んだディーノの目に飛び込んで来たのはテーブルに乗せられているかなり大きなホールケーキとベッドを埋め尽くすお菓子の山、そしてそのお菓子の山の中でザンザスにポッキーを餌付けされている雲雀の姿だった。


「ハーレム状態!?」
「ししっ、うるせー奴が来たぜ。」
「うぉ゙お゙ぃ!!勝手に入って来るなぁ!」

勝手なのはお前らだろ!
ずんずんと雲雀の元へ歩み寄り、ディーノが思いきり雲雀を抱き上げる。


「今日は誰が何と言おうがダメだ!恭弥は俺と過ごすんだ!」
「ちょっと…苦しいんだけど…」

ぎゅーっと雲雀を抱きしめたディーノが威嚇するようにザンザスたちを睨み付けた。6時までには帰って来いよと綱吉に言われた雲雀と過ごす時間は決まっている。せっかくの誕生日、一緒にいられる内は心から祝ってやりたいし甘やかしてやりたい。(甘いのはいつもだが。)

「…あなた疲れてるみたいだから今日は寝てた方が良いんじゃない?」

朝っぱらから壁を突き破って入って来たザンザスに気が付かないくらい深く寝入っていたディーノを気遣った雲雀の発言だったが、どうやら今のディーノには通じなかったらしい。何だよそれと面白くなさそうに顔を歪めては更に強く雲雀を抱きしめ、俺よりこいつらを選ぶのかよ!と珍しい事に嫉妬している姿を雲雀の前に見せた。
鈍い雲雀は分かっていない。ディーノの疲れを癒すのは睡眠ではなく雲雀だという事を。


「ハッ、嫉妬なんて情けねえなドカスが。」

右手にポッキーを持ったザンザスがお菓子まみれのベッドの上で不敵に笑う。(異様な光景だな。)
うるせえと声を鋭くしたディーノも今日は引く気はなく、見せ付けるように雲雀を抱きしめながらザンザスを睨んだ。

「ていうかー、みんなでお祝いすれば良いじゃないですかー?」
「うお゙ぉ゙い!新入りが生意気に意見してんじゃねーぞぉ!」
「綺麗な壁だなー。」
「てめぇ!シカトすんじゃねぇ!!」

しかも壁とかどうでも良くね?傍観していたベルフェゴールとマーモンが取り分けたケーキをひょいひょいと口に含む。最近入ったばかりの新入り、フランは自分と同じ名前のお菓子を手に取って雲雀に差し出した。

「大変ですねー、こんな人達に囲まれて。同情しますよー。」
「頭のそれカエル?被る意味は何?」
「ミーが聞きたいんですけどー。」

カエルだと何か不満かいとムッとするマーモンをベルフェゴールがからかうように笑う。まあ一見して和やかに見え始めた空気だが、その手を離せと怒りのオーラを放つザンザスと、絶対に嫌だと受けて立つ気満々のディーノ。二人を包む空気は和むどころか更にピリピリしだしていた。
挟まれた雲雀は先程フランから渡されたお菓子を黙々と食べていて、まるでリスみたいだなとスクアーロたちを和ませる。(お前らが和んでどうする。)


「お前より俺の方が恭弥を好きだ!」
「カス野郎が…俺以上にそいつを気に入ってる奴はいねえ。」
「眠くなって来た。」
「恭弥は俺が守る!」
「とっくに手ぇ出してるくせに何が守るだこのドカス犯罪者が。」
「眠い…」
「うわー、面倒臭い人達だなー。」

誕生日とか全く関係ない話になってるし、当の雲雀は眠たそうに目をしぱしぱさせている。(完璧に関わる気ゼロだ。)
良い歳した大人が子供を取り合う姿はあれだ、あの話を思い出す。母親が二人いて、一人の子供を引っ張り合う。そして子供が痛いって言った時に離した方が本物の母親だっていう話。
ぎゃんぎゃん言い争う声が更にヒートアップして来た時、ガチャッと開いたドアから現れた人物が呆れ顔で溜息を吐いた。


「おいおい何やってんだあんたら?恭弥が可哀相じゃねーか…」
「ロマーリオ!」
「黙ってろこの愚民ヒゲカス。」

騒ぎを聞いて来たのだろうか。ヒゲカスはねーだろと苦笑いするロマーリオの姿を確認した瞬間、雲雀がするっとディーノの腕から抜け出す。
え、と驚くディーノたちの目の前で雲雀が甘えるような仕草でロマーリオにすりっと寄り添った。


「眠い…」
「じゃあ第3寝室の方に行くか?」

主寝室には何故かオカマが寝てたからな。そう言ってドアの向こうにロマーリオと共に消えてしまった雲雀の後ろ姿を、二人はまさかという気持ちで見送る事しか出来なかった。
あんなに素直に甘えてくれる事なんて滅多にない!あれが大人の包容力が成せる技か!

「…おい、カス。俺は大人だから今日は特別に許してやる。」
「…ああ、まあ俺も話の分かる大人だからな。仲良くしようぜ。」

いくら繕ったところで今更と言う話だが。


「と言う訳で恭弥!今から大人の男、俺が行くから待ってろよ!」
「させるわけねぇだろカス野郎!」

どこが大人だよ。我先にと部屋から飛び出して行った二人に、どうせまた騒ぐだけだろと予想するも訪れたのは静まった空気。
何だ?とこっそり第3寝室を覗くと、既に眠っている雲雀の寝顔をひたすら見守っている二人の姿があった。


「結局ちゃんと祝えてないしー…」
「妖艶な寝顔だ…」
「キモ。」

タイムリミットまで残りは8時間弱。すっかりデレデレしているディーノが慌てて雲雀を起こし、トンファーの餌食になるのはまた別の話。
だけどそんな機嫌もチョコレートさえあれば治ってしまうのは知ってるからね。




























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