ドガシャーン!と何やら大きな破壊音が二階から聞こえ、リビングで暢気にトランプをやっていた獄寺と骸の手がぴたりと止まる。
今日は日曜、時刻はちょうど十時を回ったところで、いいとも増刊号でも見るかと言いながらリモコンに手を伸ばした笹川も動きを止めた。
綱吉の寝起きは悪くはない。(大体起きた時は素面なのだから。)目覚めたと同時に部屋に設置されている専用の冷蔵庫からビールを取り出し、そこで天下無敵のS田綱吉が覚醒するのが日課というか、この家の常識になっている。しかしそれでも酒さえあれば基本は機嫌の良い綱吉に何があったのか。朝っぱらから厄介なことに巻き込まれそうだ、とその場にいた三人のテンションが一気に下がる。ランボが公園に行きたいと騒ぎ、それに付き合うように出掛けた山本を心底羨ましく思った。


ズガン!またしても大きな音と共に今度はリビングの扉が粉々に舞い散った。
左手に殺虫剤(キン○ョール)を持ちながら現れた綱吉はリビングをゆっくりとした動作で見回し、チッと舌打ちをする。

「…ここにはいないみたいだな。」

何がですか。まさかゴキ○リでもまた出たんですかと思い、骸が綱吉にちらりと視線を向けそして見付けたのは腕にある二つの小さな赤い跡だった。
なるほど、と合点がいった骸はとりあえず機嫌を直してもらおうと立ち上がり、この前買って(盗って)来ておいて良かったなどと言いながら医療箱の中から小さなそれを取り出す。


「お使い下さい。」

痒みすっきり!
渡されたのは液体の痒み止め薬だった。それを受け取った綱吉がにぃっと笑い、気がきくなと骸を褒めるのを見ていた獄寺がすいません十代目!気が付かなくて俺は右腕失格ですと床に額をがんがんとぶつけ始める。極限に熱いなタコ頭などと言いながら笹川が笑い、いつもの和やか(…)な空気に戻りつつあった時、玄関のドアが開く音がした。
山本とランボが帰って来たのかと思ったが、リビングに入って来たのは黒髪を靡かせた人物で。


「邪魔だよ。」
「んだとてめー!」
「おお、ヒバリではないか。」

床に土下座していた獄寺をじろりと睨み、ネクタイを緩めた雲雀が冷房の風が一番よく当たるソファーへ腰を下ろす。しっとり汗をかいた額、そして首筋を見て、いや、本当外の気温は何度くらいなんでしょうねえ、あいつアホ牛に帽子かぶせて行ったんだろーな今日は本当暑いぞ、そうですねえクハハ、と骸と獄寺の何だか少し無理矢理気味に聞こえる会話がリビングに響いた。
ちらり綱吉を見ると虫刺され跡に薬を塗るのに集中している様子で、何とかやり過ごせそうか?と二人が思った時。


「何だ、ヒバリも蚊に喰われたのか?首が赤くなってるぞ。」

てめー芝生頭!獄寺が叫んだのに、骸がもう駄目だこりゃといった様子で軽く頭痛のする頭を抱える。
ぴくりとその言葉に反応した綱吉の視線が雲雀の首筋に向けられ、そしてそこには濃い赤色の跡が小さいながらもはっきり存在していた。

「お前も薬を借りたらいいだろう。」
「もうてめー黙ってろよ!」
「何だと!意味がわからんぞタコ頭!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を尻目に骸はひっそりリビングから抜け出す。
虫刺されと指摘された部分を指先で撫でた雲雀は、小さく溜息を吐いた。


「君達うるさいよ。」

部屋で寝る。そう言って二階の自室へと向かった雲雀が肩から少し長めの金髪を落として去ったのに、獄寺の体温がさーっと下がる。ようやく全て理解したらしい笹川が小さく、極限にすまんと呟くがそれはもう後の祭り。
握っていた液体薬を潰した綱吉が、びちゃっと飛び散るそれを見て口笛を吹く。(楽しい時、面白いことを見付けた時の癖だ。)


「これ、あそこに塗ったら気持ちいいかも知れないなあ?」
「ええーーー!?」
「スースーした感覚が病み付きになるんじゃないか?試してみろよ。」


にやにや笑いながら迫り来る綱吉から逃げる術など何もない。とりあえずそんなもの塗ったらどうなるかなんて…!

…どうなるんだ!?



































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