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□過去の幻影
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―昔の俺は愛なんて知らなかったー
過去の幻影
「・・・保ちゃん!久保ちゃん!」
「ん?時任どうしたの?」
夜中のまだ日が昇るにはほど遠い時間に、俺は起こされた。
「どうしたのじゃねえよ。久保ちゃんが魘されてたから起こしたんだけど・・・」
「あっごめん、起こしちゃった?」
「別に気にしてねぇけど・・・どんな夢見て魘されてたんだ?」
俺の顔を覗き込むようにして、時任が聞いてきた。
ぼんやりとしか覚えていない夢の内容。
「ん〜聞きたい?」
「別に久保ちゃんが言いたくないなら、それでもいいけど」
そっけない返事をして、狭いベッドの上で俺とは反対側の壁のほうを向いてしまった。
そんな時任が可愛くて、愛しくて、つい抱きしめたくなるけれどそんなことをしたら照れ屋な彼のことだから逃げ出してしまうから、我慢我慢っと。
「時任」
「何?久保ちゃん」
「さっきね、昔の俺の夢を見てたの」
「・・・それでどうして魘されてたんだよ」
時任がやっとこっちを向いてくれた。
普段見せないような真剣な顔をしていて、少しおかしくなった。
「独りで暗い中をずっと歩いてた夢」
どこか遠いところを見ていたら、時任が抱きついてきた。
「・・・俺、昔のことなんて覚えてねぇけど、今久保ちゃんといれて幸せだよ・・・」
「俺もだよ、時任」
「絶対、久保ちゃんが嫌だっつてもここにい続けてやる」
俺たちは互いの体を決して離さないように強く抱きしめあった。
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