実験素材C群
□アントゥルース
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五分ほどした頃だろうか、ちょうど最も人の集まる繁華街のど真ん中、あたしでも名前を知っているホストクラブ『エデン』の前に小桜と一緒に立っていた。
「あ、あの、ここってこの界隈で一番良い店なんじゃないの?」
「うん、そうだね。ま、気にする事じゃないさ」
「いやいや、気に――あぁ、ちょっと!」
あたしの言葉など歯牙にもかけず、小桜はズンズンと進み店のドアを開け放つ。
最初に目に飛び込んだのはどこの宮殿だと思うような豪華な造りのエントランスで、壁にはたくさんのホストの写真が並べてかけられている。
金・銀のフレーム、赤い絨毯、バカみたいにきらびやかで大きなシャンデリア、たくさんの花々、高そうな調度品だと思われる花瓶やら絵画やら。
奥からは楽しそうな女性達の叫び声とホスト達のコールをかけている声が聞こえる。
「あぁ、忙しかったかな? 連絡ぐらい入れとけば良かったかなぁ」
小桜はしまった、というような顔をしながらも、しかし普通に先を歩いていく。
「ちょっと待って、置いてかないでよ!」
「ん? あぁ、ごめんね。とりあえず着いてきて、誰も来ないけど構わないでしょ」
小桜はこの余りにも場違いな店の中で、まるで自宅にいるかのように普通にズカズカ進んでいく。
あたしもその小桜の後について、縮こまって進む。
と、店の奥からウェイターらしい人が出てきた。
「あ、チギリ、もう来てたんだ?」
それは、多分日本人ではない色黒の女の子で、長く伸ばした黒い長髪と、大きな目が印象的なお人形さんみたいな女の子。
バッチリメイクのあたしとは違う、本当にノーメイクで素材で勝負している女の子。
それ以前に、チギリって何、小桜の事? とか思ってしまった。
「悪いな、メールぐらい入れれば良かったかな。忙しいの、今?」
「ちょっとだけなんだけどね。ところで後ろの子誰?」
小桜を通り越して、あたしを覗き込むその子に、思わず隠れてしまう。
というか、ちょっとあの子なんであたしを見る目がちょっと鋭いの?
「あぁ、ここ来る途中に色々あって連れてくる事になった子。店じゃなくて奥に通しちゃって大丈夫」
女の子は訝しげな顔をしたが、しかし小桜のいう事だからか納得がいってない様子ながらも渋々とあたしと小桜を案内する。
で、何故かあたしは小桜と共に客席の方へと通される。