贈物

□砂上の楼閣
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大人になったら、恋人が出来て、普通に結婚して子供が出来て、好きな人と子育てしながら喧嘩しながら歳をとって、そんな当たり前が誰にでも用意されているものだと思っていた。

勿論自動的に自分を好きになってくれるような人はいなくて、人に優越感を与える為の存在になっていて、…太陽に手なんて、届かなくて……


「あー、何してんだろ。」


気が付いたら名前も知らないマフィアのボス候補になっていた。そのお陰で人との関わりが持てたけど此処までなら此処までならという線引きがどんどん広がって、人を傷付けることも護るためなら仕方がないだなんて…


「……やっぱ、違うよな…」


自分の身の回りの為に誰かが傷付いて良いなんてことはない筈なのに。いつの間にかボス継承が確定事項になっていたこの状況でやっと理性が戻ってきた心地だ。今まで大人になったら手に入るのだろうと勝手に考えていたものとあまりにも違いすぎていると。


「人になんて、関わらなきゃ良かった。」


好かれることが嬉しすぎて見えてなかった。漠然とした未来。自分はそれを奪う立場に成りうること。


「…間違ってる。俺が、俺が壊さなきゃ……」


それで、俺が人を好きになれなくなったとしても、当然、なんだろうか。継承式までの間、はちゃめちゃだったけど確かに楽しかった。それをくれた彼らを巻き込まない…いや、完全に巻き込まないことは今の俺には出来ないけど、少しでも遠ざけるためなら、いいんじゃないかな。
そんな、たった一度の人生も。


 
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