長篇
□一瞬で恋に落ちる。
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一瞬で恋に落ちる Side:雲雀
それは、入学式の日−−−
桜の花がその命を散らせている裏庭で僕はその子供に出会った。
琥珀色の髪に男子にしては大きめの透き通った瞳をした小動物のようなその子供。
気まぐれに、何故か声が聞きたくなった。
彼は僕に気付いていないようで、一向に口を開く気配がない。いっそのこと僕から話し掛けてみようかと思ったのも、また気まぐれ。
「ねぇ。何してるの。」
声をかければ驚いた顔をして「あの…その…」などと彼は言葉を濁した。…と、言うより今自分が置かれている現状をどうやって僕に伝えようか考えている。
「あの…体育館って何処にありますか…」
…どうやらこの子は新入生らしい。何故正門近くにある体育館に行くのに迷うのか些か疑問が残るが、自分の欲望が満たされて機嫌が良かった僕は素直に教えてあげることにした。
「そのまま真っ直ぐ行って校舎の角を左に曲がりな。そしたら玄関前の奥に見えるから。」
後ろを振り向いてつい、と校舎の角を指せば、パッと顔を明るくして
「ありがとうございます。」
安心したように笑うと彼は頭を下げ、早足に僕の横をすりぬけて行った。
柔らかい日だまりの匂いがする顔だった。
きっと彼には桜より向日葵が似合う。
そんな事を考えながら彼の後ろ姿を目で追った後、何の気無しにポケットにいれたままの携帯を取り出した。携帯の画面を見れば式の開始時刻5分前だ。
「別に行かなくてもいいか。」
この感じを煩い群れ共に掻き乱されるのは気に入らない。昇降口まで行くのも煩わしくて近くの窓を開けてそのまま校舎に入った。最後にあの子が曲がって行った角を見ながら一人呟いてみる。
「式に遅れたら咬み殺すよ。」
ふ、と目を閉じて思い出されるのは最後に見たあの子供のあたたかい笑顔。
『もう一度その笑顔見せてよ』
こんな事を思うなんてらしくないね。けど…それでもいいと思ったんだ。