贈物
□HAPPY Barentain!
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青空が綺麗な休日。
今日は世の乙女達に勇気をくれる魔法の日…そう、バレンタインデー。
「…いや、俺乙女じゃないし。」
ナレーションにまでツッコミを入れてくれる彼は沢田 綱吉。本人日く男の子です。
「本人日くとか言うなっ!!」
えー、(無視)ただ今彼はチョコレートという魔法のアイテムを作り出すべく悪戦苦闘中な訳ですが…何故山本君がいるんです?
「逆チョコ、てのが流行ってるらしーぜ」
山本君、それはお菓子会社の陰謀ですよ。
「そんなこと言ったらバレンタインにはチョコレート、てのもだろ。」
まぁ…ごもっともな御意見です…。
「あのさ、そろそろナレーションと会話するの止めない…?」
「あ、そうだな。」
その意見、賛成です。
…コホン。今彼らが作っているのは溶かして固めるという非常にシンプルな物なのですが、チョコレートという物はとても繊細な物で、水気がある道具を使えばアウトですし、ほかっておけば固まってしまったり…ととても難しかったりするのです。………特に男子中学生には。
「あ、また水が入っちまった。」
チョコレートを溶かしていた山本君が罰が悪そうな顔でボールを持ち上げます。
「…まだ入ってないよ。ふちに付いただけみたい。」
「お、セーフか?」
「…多分。」
なんだか見ていて頬笑ましい光景ですね。
大好きなあの人にチョコレートをあげる…いいですね、青春ですよ。
「後はこれを固めるだけ…かな。」
「長かったなー。」
ぐっ、と背中を伸ばす山本君に綱吉君はあはは…と苦笑いを零しました。そうですよね、なんてたって彼の性で星になった板チョコが何枚も居るんですから。勿体ない。
「…ちゃんと食べたし。」
ナレーションと会話しないんじゃなかったんですかー。
「………。」
「なかなか上出来かもなー。」
冷やしていたチョコレートを覗き込む山本君の声に正気(?)に戻った綱吉君がパタパタとスリッパを鳴らして再び台所へと向かいます。
「もう固まったの?」
「さすが冷凍庫。」
ぐっ、と親指を立ててニカッと笑った山本君に綱吉君も笑いかけます。
「早く包装して獄寺君にあげなきゃね。」
ラッピングていいなさい綱吉君!君は乙女なんですよ!!
「乙女じゃなーーーい!!」
恋する人はみんな乙女なんです!
「ツーナ。会話してる会話してる。」
「あ、そうだった無視無視。」
ガサガサと奈々さんが用意した包装紙を取り出し丁寧に丁寧に二人は包装をしていきます。
「おっし、完成!」
意外と器用な山本君はチョコレートを綺麗にラッピングして満足そうに微笑みました
「わ、山本早いなー。早速渡して来たらどう?」
「ん?けどまだ片付けあるしなー。」
「洗い物もちょっとしか無いし俺の性で長引いちゃったんだから少しでも早く届けてあげた方が良いよ?きっと楽しみにしてるだろうしさ。」
「そうかなー?」
「多分…ね。」
「じゃあ駄目元でちょっと行ってくら!」
「行ってらっしゃい。」
エプロンを外し玄関へと向かう親友を笑顔で見送って綱吉君はまたラッピングに取り掛かります。
なんとかラッピングし終わったチョコレートを机に置いて綱吉君は溜まった洗い物に手を伸ばします。
「後は洗い物、か。」
山本君に大丈夫、と言った手前サボるわけにはいきませんからね。それに料理に後片付けは付き物ですし。
「やっぱちょっと甘すぎたかな…。」
ボールに付いたままだったチョコレートをぺろり、と舐めて綱吉君は少し眉間に皺を寄せます。
「雲雀さん甘いの苦手なのに…。」
口には出しませんが雲雀 恭弥は甘いものを好んで食しません。苦手なのか嫌いなのか嫌悪しているのか知りませんがとりあえず好きではないようです。
「食べて…くれるかな。」
途端にしゅん、とした綱吉君。ほら、そういうところが乙女なんですよー。
「煩いな。いいだろ、別に。」
まぁ、そこが綱吉君の…
「可愛いところだと思うけど?」
「ひ!ひば…///」
(恐怖を与えるような)にっこりとした爽やかな笑顔をした雲雀君が何時ものように窓から沢田家へとやってきました。
「チョコ…作ってたんだ。」
「あ、はい。チョコ…嫌いでしたか?」
「………嫌いじゃない。」
けど、好きでもないんですよね。
「もし、嫌でしたら他のに代えますけど…あ、けどもう夕方だから既製品になっちゃうなー…。」
「君が作ったのなら食べる。」
「で、でも苦手なら…」
「誰も苦手なんて言ってないでしょ。」
む、とした表情から察するに図星だったんですねー。
「でも…」
「じゃあ味見して決める。」
「え、…ッ。」
味見をする、と言いながら雲雀君は綱吉君の唇に自分の唇を重ねて綱吉君の口の中に残っているチョコを味わいだしました。
くちゅくちゅと台所には似合わない音が辺りに響きます。…恥ずかしい人達です。
「ぷはっ…」
「うん、大丈夫みたい。」
「大丈夫みたい、て…。」
いきなりキスを仕掛けてきた相手を綱吉君はじとっ、とした目で睨みます(本人は睨んでるつもり)。
「君よりは甘くなかった。」
「なっ…///」
…恥ずかしい人ですねー、本当に。
もう彼らの好きにさせてあげましょうか。………おそらく好きにするのは雲雀君だと思いますがね。
バレンタイン。それは数多の乙女達が己の秘めたる想いを告げる日。
遥か昔に人々の恋の成就を願ったバレンタイン氏はきっと今の彼らを見て微笑んでいることでしょう。
世界中の恋する乙女に幸あれ!
【おまけ】
「いい加減そのナレーション止めろよな」
「何故ですか?素敵なナレーションではありませんか。」
「耳障り。」
「酷いです、雲雀君!!」
愛しい恋人を抱きしめたまま雲雀はギロリと今回のナレーションを担当した南国果実こと六道 骸を睨む。
「大体なんでお前がナレーションしてるのさ。仮にも一緒にチョコ作ってるのに。」
そうなのだ。今回沢田家でチョコレート作りをしていたのは綱吉、山本、骸の三人なのである。(ただし、骸は二人の横で板チョコをかじっていただけ。)
「始めはチョコレートを製作するつもりで来たんですけどね。可愛い可愛い凪…いえクロームがチョコレートを僕たちに作ってくれると言うので、ならばと…」
「それは聞いたよ。それなら、ディーノさんにあげればいいじゃんて俺言ったよな」
「誰があの種馬にチョコなんてあげるものですか!そんな事する前に僕が食べ尽くしますよ!!」
ふんっ、とそっぽを向いた骸に二人は顔を見合わせる。
「自覚ないの、あいつ。」
「…みたいです。」
ぽそぽそと耳元で会話をしあう二人を尻目に骸は苛々とチョコを一つ口にほうり込んだ。
(誰があんな種馬にチョコを渡しにいくものですか!)
去年、クロームが買ってきたチョコを綱吉に命令され、届けに行った骸は沢山のチョコレートに囲まれたディーノを見てこいつにだけはチョコレートはやらん、と心に決めたのだ。…自覚無しに。
「これって嫉妬て言いますかね…?」
「さあ?後は南国果実次第でしょ。」
そう言って雲雀は愛しい綱吉をぎゅう、と抱きしめたのだった。
2009.02.14 愛の日。