贈物
□一万打感謝:らな様リクエスト
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朝のけだるいホームルームの時間、沢田が秘密で持ってきていた携帯がメールを受信してランプをちかちかと点滅させた。
(誰だろ、こんな時間に)
山本はうつらうつらと船を漕いでいるし、獄寺は完全に夢の中。
メールをくれる人が思いつかない沢田は右隣りが今日の課題を片付けているのを横目で確認して携帯を開く。
(こういうとき窓側て、便利。左には窓しかないもんな…誰からのメールかな、)
受信ボックスを開こうとした途端ぬ、と背後から手が伸びてきてパタン、と携帯を閉じられた。
「え、」
「携帯持ってくるのは校則違反だよ。」
耳元で低く囁かれて色々な意味で沢田はぞくり、とした。知りすぎた声が、よく言われた言葉が、手の持ち主を告げる。
「な、なんでいらっしゃるんですか、」
「さあ、なんでだろうね。」
「じゃあ、まさか…」
「さっきメールしたのも僕。」
背後から伸ばされた手は先程閉めた携帯を開き我が物顔で受信ボックスを開く。
…最新メールの送り主の名は『雲雀』。
最強にして最凶の、並盛中風紀委員長様。
「じ、自分だって持ってるじゃないですかっ!」
「僕はいいの。」
「むー…」
「唸っても君は駄目。」
ひょい、と携帯を没収されて流石の沢田も諦めた。業後になれば返してもらえる、という自信と雲雀ぐらいしかメールなんてしてこない、という確信からだ。
「…て、あれ、なんで俺雲雀さんがいる、て気がつかなかったんだろう………」
雲雀がクラスに来れば教師は青ざめ生徒は口を閉ざす。そんな緊張感と不安の入り乱れたなんともいえない空気は微塵もない。寧ろ何時も通り過ぎるほど何時も通りだ。
「…後ろ振り向いてみる?」
「ふえ?」
言われるままに振り向く、と………確かに雲雀はいた。雲雀愛用な黒縁眼鏡をかけてはいるが綱吉が雲雀の顔を見間違えるはずがない。しかし、雲雀であって雲雀ではない。雲雀なはずなのに…
「…雲雀さん、?」
「そうだよ。」
雲雀は「?」に気分を害した様子もなく何かを企んでいるようににやにやと微笑んでいる。
「……でも、なんか何処か……………て、雲雀さん学ランは!?」
「ん?、忘れた。」
「いやいや無いでしょ!!」
「昨日雨だったからね、」
「昨日むちゃ晴れてましたがっ!」
「その前の雨でね、」
「雲雀さん学ラン三着あるくせに!」
「三着とも、」
「スペアまだ二着あるの知ってるんですからねっ!」
「……。」
「何企んでるんですか雲雀さん、」
沢田がむ、と顔をしかめてみせると耐え切れなかったかのように雲雀の唇から珍しく笑い声が零れ落ちる。
「何笑ってるんですかー、」
完全に後ろを向いてじ、と怨みがましく雲雀を見つめている沢田に雲雀はうっすらと目の端に溜まった雫を白く長い指で拭って口を開いた。
「やけに僕のクローゼットの中、知ってるね。」
「そりゃそうですよ!何回クリーニングに出したか!」
「ふふ、そうだね、うん。僕より君が出す方が多いからね。」
「お陰で雲雀さんの漢字を間違えなくなりましたよ。」
「うん、結婚する準備は出来てるね。」
「なっ、ななななな何言って、!!!」
「違うの、」
「っっっ!///、もう知りませんっ!!」
「沢田、」
「なっ、なんですか、」
「あんまり声大きいと、怪しいよ、」
「へ、」
きょろ、と沢田は周りを見渡すがそれぞれが自分の作業に没頭していて全くと言っていいほど注目なんてされていない。
「ここまで担任の話を聞いてないのも、珍しいというかなんというか、」
「別に、怪しまれてませんけど!」
「まあ怪しくはなかったね、」
「で、なんでうちのクラスにいるんですか雲雀さん。」
「授業見学、」
「見学?」
「最近授業態度が良くないらしいからね、仕方なく見張りに来た。」
「…………大丈夫ですか、」
「何が、」
「咬み殺したくならないですか…」
「…僕と沢田に近寄らなければ、ね。」
不敵にキラリと輝いた瞳に沢田は顔を青くした。明らかに殺る気の瞳だったからだ。
「…いつも通り応接室には……」
「戻らないけど、」
「…ずっと、いるんですか?」
「嫌なの、」
「いえ、そんな……」
「授業の準備しろよー。」
「あ、」
「ほら、準備しなよ、」
「ひ、雲雀さん!」
準備しなよ、と言いつつ読書を始めた雲雀を横目でチラリと見ながら数学の準備をしていると始業を告げるチャイムが鳴り、やはり何事もないかのように授業が始まった
「よし、昨日の復習なー、」
と、教師がさらさらと黒板に数字を並べていくが勿論、沢田には解るはずもなく、下を向いておけば当たらないか、と真っ白なノートに視線を落とした。
そして全神経を背中、というより背後に集中させ、雲雀が当たらないことを願った。
いつも後ろの席にいる生徒は先生の中では欠席なのだろうか、出席になっているのだろうか。後ろの席だった生徒の安否が気にかかる。
教師が前の方に座っている生徒を中心に当てていくが難しいのか正解が出てこない。
すると沢田の斜め前に座っているクラスのリーダー的存在の男子が手をす、とあげた
「なんだ、分かったか。」
「いや、俺は全然解んないんですけどー、なんか沢田君は解けたみたいですよー。」
その発言にざわっ、とクラスがざわめいきクスクスとした笑い声やえー、なんていう驚きの声が寄せては引き沢田の額をは嫌な汗が流れ落ちた。
「ダメツナには無理だろー」
「無理無理、」
なんていう声も聞こえだし、その通りだから次の人に当てて!なんていう儚い願いは叶わず、教師がじゃあ、沢田、答えてみろという声が響いた。
沢田は手の平がじっとりとしめるのを感じたがクラスの視線の先は全て沢田だ。
「早く答えてやれよー」
と、この騒ぎの原因がからかうのを聞かなかったふりをしながら頭の中でない知識を必死に掻き交ぜていた沢田の背中に何かがとん、と触れた。
何だろう?と沢田が考えているうちにそれはす、と上にいき横にいき離れたかと思えばまた触れて『6』を描くように動いた。
沢田はぞわぞわと何ともいえない感覚を味わったが、それは
『√6だよ、』
と雲雀に囁かれているようでさえあった。
教師が答えは?と再度聞いて来たのにはっと我に還ると教えてもらった通り√6ですと沢田は小さくつぶやいた。
「正解、沢田はよく復習したな、じゃ、今日の範囲はー」
淡泊な数学教師は授業を再開したがクラスはざわざわとさざ波だった。
口々にあのダメツナが、と囁きあい、沢田は身を小さくしてどうしたものか、と思案する。するとまた斜め前の彼が今度は沢田にこそり、と話しかけた。
「ダメツナの癖によく答えられたな、」
クスクスと最後までからかっている様だ。
ダメツナ、ダメツナとよく飽きないなぁ、なんて半ば沢田が諦めていると背後で殺気が燃え上がった。
昔の沢田なら気付かないだろうがリボーンに鍛えられた沢田にははっきりと分かってしまった。
(ひひひひ雲雀さんんんん…!)
間違いなく彼の発言、もしくはこのクラスの空気が雲雀恭弥という獣にいらない火をつけたのだ。
がた、と椅子を引く音がやけに耳に響く。
(来る…最凶の風紀委員長がっ!!)
「止めた、面倒。」
その声にクラス中の目線が沢田、正しくは沢田の後ろに集中した。
「ここにいる全員生活態度が著しく悪い。業後に反省文五枚書いて応接室にまとめて提出するように。」
一枚でも足りなかったら咬み殺すから、と言い置いて苛々の募った雲雀が教室をあとにしようとすると、のほほんと山本が手を上げた。
「先輩。俺業後は練習試合があるんすけど書いてから行かなきゃ駄目っすか?」
雲雀は一拍置いて
「練習試合だからって負けたら容赦しないよ。」
勇気ある山本の発言のあと卓球部のエースも反省文を免除された。
(あーあ…反省文に巻き込まれた……)
がっくりと沢田が肩を落とすと右腕をぐいと引かれた。
「へ!?」
「君は生け贄ね。」
「はっ!?ちょ、ちょっと雲雀さん!!」
沢田が『雲雀』と呼んだ瞬間にクラスがざわめいた。
「雲雀?まさかあの…?」
「あの雲雀かよ…まじか……」
そんな呟きさえ聞こえ始めた。
(いやいや気付いてなかったの!?あの独裁者の口ぶり!あれで気付かないなんて)
「行くよ、」
「え、ちょ、ま、…本当に連れていかれるんですか俺、ちょっと、雲雀さん、待ってくださいってばーっ!!!」
(静かな並中の校舎で響く)
(哀れな生け贄の声)
***
らな様》
大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!!今回はリクエストしていただきありがとうございました。
御題もとても素敵で楽しく書かせていただきました。少しでも、らな様の理想に沿えたらいいなぁと切望しております。
全く御題に従えていませんが………。
もっと素敵に書けたら良かったのですが、残念なものになりました…(泣)
もし何か不備等がございましたら遠慮なく返品してくだされば改めさせといただきます。返却、返品、苦情はいつまでもお待ちしております。
お持ち帰りもどうぞ御自由に!
ありがとうございました!!
良いお年を!
2009.12.26 ゆりあ