贈物
□私たち、恋愛中
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息が真っ白に煙る寒さの外界と遮断された暖かな応接室で雲雀を待つついでに課題を開いてこちらも真っ白なノートと睨めっこをしている沢田に今日は寒いね、のノリのままに雲雀が口を開いた。
「綱吉、デートしようか。」
「いいですよ。」
「そう、じゃあ24日は空けといてね。」
「………ん?」
「ん?」
「デート…?24日?」
「うん。並盛商店街で。」
「え。」
「なに。並盛商店街以外に何処かある?」
「いや、え、ぁえええぇえっ!?」
「…煩いんだけど。」
機嫌悪そうに頬杖をつく雲雀の機嫌をこれ以上損ねないように無理矢理開いた口を閉じて、口に出来ない分忙しく視線を移動させた。未だに脳に電気信号が行き渡りきっていない。
「君さ、視線で会話出来そうだね。」
組んだ指の上に顔を乗せて珍しいものを見るかのような表情の雲雀に反論したいが、いかんせん自分で口を塞いでいるので出来ない。そろそろ何か喋れば良いのにと思いつつこの沈黙も嫌いじゃない雲雀は未処理書類をそのままにさ迷う沢田の視線を追う
「………24日に、出掛けるんですか?」
「うん。デート。」
【デート】の単語に、毎回頬の赤みが増す沢田がなんだか可愛くて意味もなく馬鹿みたいにデートデートと口にする。生憎雲雀に羞恥心というものは備わっていない。
「で、デートは、勿論嬉しいんですけど、嬉しいんですけれど…」
今月は12月。いずこかの国では赤い服を着たふくよかな老人が白い大きな袋にプレゼントを詰めてトナカイに引かせたソリに乗って家々に不法侵入するという日本では完璧に恋人の日になってしまったクリスマスという雲雀流にいうなら群れが集う日、がある月である。しかもその月の24日。
「町内咬み殺しツアー…?」
まがりなりにも聖なる日だろうに、雲雀とクリスマスイヴとなると血を見ることになりそうな気がしてしまう沢田である。
「それもいいけど、」
(いいんかいっ!)
「…綱吉もしかして知らない?」
「………何をですか?」
きょとん、と首を傾げる小動物に癒されつつ雲雀はデスクの引き出しからクリスマスカラーの広告らしきものを引っ張り出して沢田に見せる。
「これ、は?」
「今並盛の商店街に行ったら沢山貼ってあるよ。」
「そうなんですか?」
立ち上がって雲雀から広告を受け取ってみるとポップな字で【恋人・家族連れ必見】と大きく書かれている。こんなの商店街に貼ってあったらいつもより混雑するんじゃないのか?と思いつつ他の場所も読んでみる。やはりポップな字で【商店街でお買い物した人全員、遊園地・水族館・動物園・そして大型ゲームセンターがなんとなんと入場無料!】と驚愕の内容が明るく書いてある。
「しかも24日…?」
24日なんて何もしなくても人が集まりそうなものなのにそれに加えて商店街で買い物しただけで入場無料と言われたらみんな行くに違いない。
「……そういえば母さん達が遊園地に行くって…もしかしてこれのこと…?」
「そう、奈々さん達行くんだ。じゃあ何か優遇してあげなきゃね。」
パレードの場所取りでもさせておこうか?と支配者らしいお言葉をそっとスルーして沢田はまたも小首を傾げる。
「でもなんでこんな…」
「折角の君が好きそうなイベントだから、出掛けやすくしようかな、てね。」
「え?」
「恋人らしいこと、好きでしょ?」
雲雀が微笑むと沢田の頬が火が点いた様に赤くなった。沢田の好きそうなイベント、というのはクリスマスだろうか?わざわざ気にかけてくれたのだろうか?仮説を立てただけなのに嬉しくて跳びはねたくなった
「クリスマスに、デート、てのですか?」
「好きじゃなかった?」
「う、嬉しいです。好きです。」
沢田は恥ずかしいのか俯いてしまったが、雲雀はそれでも楽しそうに笑った。
群れを蹴散らす時のような楽しさじゃない楽しさも最近の雲雀はお気に入りだ。
並盛や並盛周辺のテーマパーク等を、一体どれだけのお金と権力で入場無料にしたかなんて気に出来る人がいないのはある意味では幸せなことかもしれない。
雲雀は自分と沢田のためならば金を惜しまない男であった。
「聞きました、聞きましたよ雲雀君っ!」
「!」
良い雰囲気を壊すように、実際に応接室の重厚な扉を破っていきなり現れた人影と声に驚いたのは綱吉だけで雲雀は座った目で不法侵入者、六道骸を睨み付ける。
「何しに来たわけ。」
「雲雀君と綱吉君の六道骸です!」
「いや、いつそうなったんだよ…」
「咬み殺す気も失せるんだけど。てか君、一回死んだほうがいいんじゃないの?」
「…相変わらず二人とも僕にはツンツンしちゃって……本当に可愛いですねぇ。」
「「寒気がするから止めろ」」
「おや、息ぴったり。まあ、冗談はこの辺にして……」
「冗談に聞こえなかったんだけど…!」
「クリスマスイヴにデート、…良いですね青春ですね。ところで提案ですが、」
「却下。」
「せっかちさんですね、雲雀君は。最後まで聞いてからにしてください。」
「提案て?」
「綱吉君、」
ガシッと沢田の両手を掴み沢田を見つめると、途端に骸に向かってトンファーが風を切って飛んで来た。それを数本の房もとい髪の毛を犠牲にして避けた六道は真剣な目で沢田に語りかけた。
「僕に君達のデートを後ろから観察して、なおかつ写真を撮れる権利をください。」
「………お前、南国帰れよ…」
「おや、寒い日本とおさらばして常夏の島で雲雀君と綱吉君がデートですか?それはそれで是非同行したいですね。」
「…お前なぁ……」
「大丈夫です。旅費ならなんとかします。僕の雲雀君と綱吉君の為ですからね。」
にっこりと嘘臭く微笑んだ六道に、雲雀が対のトンファーを投げようと構えたところで、ぽっかり開いた元出入口の方から鼻を啜る情けない音と共に誰かの話し声が聞こえた。今日の応接室は招かざれる客が多い
「ろ、…ろま、…ロマーリオ、俺どうしたら……俺の骸が、俺の骸が、恭弥とツナのもんになっちまったぁぁぁ」
うわーん!と豪快に男泣きをしている男の太陽より眩しい金色の髪がチラチラと垣間見える。ゆらりと見えた頭に雲雀が構えていたトンファーが綺麗に当たった。
「あ、雲雀さん!!」
責めるというより窘めるように沢田が雲雀の名を呼ぶとぷいっと雲雀はそっぽを向いてしまった。沢田のフォローは聞きたくないという意思表示だ。仕方なく沢田が六道の手を振り払って廊下に向かうと、雲雀のトンファーを避け切れなかったのであろうと思われる気絶したディーノとボスを気遣う有能なロマーリオの声がする携帯電話があった。繋がったままの電話に躊躇いながらも出ると呆れたようなロマーリオの声がした。
『ボス?どうしたってんだ。ボス。』
「…もしもし、沢田ですが……」
『ボンゴレ?……まさかまた日本に?』
「すいません、そのまさかです…」
『何処に消えたかと思ったら……』
「あは、は、あっ!」
「ちょっと、綱吉困らせてないでこの種馬回収してくれない?」
『ああ、雲の守護者か。毎度すまないな、うちのボスが……』
「本当だよ。あなた達は優秀なのに。」
『そんなんでも俺らのボスだ。そう悪く言わないでやってくれ。』
「ふん。」
「もう雲雀さん!…すいませんロマーリオさん。ディーノさん今、並中にいます。」
『また姐さんに求婚か?クリスマスが近いからそろそろ来るかとは思ってたが…』
「あね、さん?ディーノさんお姉さんなんて日本にいました?」
『あ、ああ…なんだ……その、』
「姉、ていうより弟だよね。」
「弟?」
『六道さんですよ。…六道骸。』
「は…?」
『ボンゴレ霧の守護者で黒曜の…』
「わ、わかります、大丈夫です。そんな変な名前の人あんま…というかいないんで……まあ、それは良いんですが…きゅうこんていうのはチューリップになる前のあの」
「君ちゃんと変換出来てるんだろう?いくらこの間の10点満点のテストで1点でも国語の成績が2でも、流石に求婚ぐらいはきちんと漢字に変換できてるだろう?ああ求婚の婚の字が書けないの?」
「確かに書けませんけど!いいじゃないですか今それをバラさなくったって!珍しく喋ったと思ったらそんなことばっか!」
『ボンゴレ…』
「ロマーリオさんにまで心配かけちゃったじゃないですか!」
「君がテスト範囲を間違えたのが悪いんだろ。僕は真実を言ったまでだ。」
「そーなんですけどっっっ!」
「僕の綱吉君、苛々した時はハーブティーが良いですよ。どうぞ。」
「ありがとう、てそもそもお前の話だし!何関係ありませんみたいな顔してんだ!」
「綱吉はお前のじゃない。あと勝手に僕の応接室を使うな。」
「僕と君の仲じゃないですか雲雀君。」
「どんな仲だ馬鹿っ!!」
「どんな仲どころか視界にもいれたくないよ。」
ロマーリオが気を利かして電話を切った事にも気付かず三人は端から見たら和気藹々と口論を数分間続けたのだった。