贈物
□君の名を呼ぶ
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彼は最初になんて言うんだろう、少し好奇心めいた感情が僕の中にあった。約一年、君はまだ僕を覚えているだろうか。正直僕は日本を発つとき沢田の事なんて一片も思い出さなかった。でも日本に着いたとき一番初めに会いたいと思った。……つまりそういうことだ。
「ひばり、さん…」
そう呟いたきり彼は僕にしがみついて何も言わなかった。僕の背に回ってる手にはシャーペンが持ったまま。泣きそうだった筈なのに僕のシャツには一筋も涙は吸い込まれない。
「沢田、」
「……」
「ねえ、沢田、」
「……」
「ただいま。」
「……………おかえりなさい。」
いってきますなんて一言も言ってないけれど、待っていてくれたんだな、そう思うと昔の気持ちがありありと甦ってくる。僕は確かに彼を好いていた。途方もなく愛していた。今まで、ずっと好いている、愛している。
昔の僕ならそう言って彼を押し倒してうやむやにしただろう。いや、うやむやにするというより唯それを刻み付けたのだろう。ちゃんと好きだよ、愛してるよ、と。
「綱吉、大学受験するんだって。」
「はい。」
「僕も受けようかな。」
「ええ!?雲雀さんが!?でも学校……」
「別に、習うだけが勉強じゃないよ。要はパターンだから、受験なんて。」
「雲雀さん、今俺を敵にしましたよ……」
「まさか、最強の味方になってあげたじゃない。」
「不正はリボーンには通じないんですよ、なんて言わなくても分かってますよね。」
「当然だよ。正攻法で何の隙もなく君を蹴りあげてあげるよ。」
「…押し上げてください。」
「出来てもしない。」
「うぅ……」
綱吉の口が滑らかになったのは高校にあがってからだ。それまで何処か遠慮がちだったのが解れていって、そして今ぐらいまで口をきけるようになった。今の方が耳触りも良いし、結構気に入っている。
いつの間にか上がっていた彼の顔はまだ僕を真っ直ぐ見ない。それだけは治らなかった。恥ずかしい、と彼は言うだけで僕には今もいまいちよく分からない。でもちらり、と横目で見られるのも懐く手前の猫のようで、嫌いではない。
「……」
「……」
少しだけ丸みを削がれた頬のラインが、結構好きだ。そう何気なく思った。その頬を何かが伝う。
「ひばりさん……」
「…うん。」
「…会いたかったです。」
「うん。」
彼の目尻は塩辛い味がした。
折角さっきまで持ちこたえていたのに、崩壊した彼の涙腺に呆れと愛おしさを籠めて何度もキスをした。