贈物

□君の名を呼ぶ
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イタリアに向かう沢田を僕は空港で見送った。獄寺隼人は既に毒サソリに引きずられ先にイタリアへ、山本武は合宿が終わってから追いかけて行くのだと沢田が言っていた。迎えにくる跳ね馬が空港に着くまで他愛もない話をぽつりぽつり、としながら人の波を眺めた。


「…雲雀さん?」

「ん?」

「咬み殺しに行っちゃわないでくださいよ。」

「分かってる。」

「本当ですか?」

「しつこいよ、君。」


ぎろりと睨むとひえっ!と情けない声をあげて未来のボスは肩を揺らした。波のように流れていく人垣は無機質でもはや群れではなくただの壁だった。まさか僕でも壁を無闇やたらと破壊したりはしない、多分。


「あっちではボンゴレの離れに泊まるんだって?」

「はい。空き部屋があるらしいので一人一部屋で三部屋貸してもらう予定です。て、言っても寝に帰るだけだと思いますけどね。」

「帰ってきたら手合わせでもしようね。」

「え、殺し合い?」

「そっちでも構わないけど?」

「確実に殺されるの俺じゃないですか!やですよ!」

「それもいいかもね。」

「手合わせ!手合わせにしましょう!ラルに雲雀さんに勝てるくらい鍛えてもらいます!」

「師範がよくても結果は本人の資質によるものだよ。」

「うー……」


君には赤ん坊が見込んだ資質があるけれども、でも君はきっともう強くはなれないと思う。人を殺す理由を、君は持たないから。味方を護る理由と命を奪わない言い訳をペテン師のように、とは言わないけれどその無い脳みそから捻り出すから。君はもう強くなれない。それでいい。未熟な君にはあれは勿体ない。

そう、あれは人を踏みにじり上に立つものだけが許された逃げ道なのだ。君はそんなことをしなくても人の上に立てる、いや、立たされる。いつか自分で崩してしまう砂山を、勝手に他人が築いてくれる。


「あ、ディーノさん!」


視界の隅に写った金髪に沢田が声をあげた。傍には優秀な部下がちゃんといることを確認して僕は立ち上がる。


「ほら、沢田、立って。」

「はい。じゃあいってきますね、雲雀さん。」

「うん。」


沢田の顔を少し上に向かせて唇にキスをした。瞬くような、挨拶程度のキスだ。沢田がいつも通り赤くなったのを確認して、顔を上に向かせていた指を離すと不意に沢田が僕の唇にキスを返した。


「……雲雀さんの馬鹿。」

「言葉と行動があってないよ?」

「あってます!」

「よお!お前ら!相変わらずお熱いな!」

「み、見てたんですか!!?」

「見るも何も見せつけたんだろ?恭弥。」


にやにやと笑う男が気に食わず、僕は男の隣に立つロマーリオの方に視線を向ける。


「イタリアにいる間、この子よろしくね。」

「ああ、うちの部下もラルさんに鍛えてもらう予定だから、安心して送り出してくれ。」

「うん。じゃあね、沢田。」

「いってきます。着いたらメールしますから。」

「ん。」

「お、おい!俺にはなんかないのか恭弥!」

「…飛行機のチケット、何処にいれたか覚えてる?」

「あ、……えっと…たしか…」

「ショルダーの内ポケット、だから忘れるんじゃないよ。」

「はーい。」

「無視か!?本当に無視なのか!?」


喚く跳ね馬など見えない僕は沢田の頭を撫でてその場をあとにした。10月提出の並盛の予算配分案を考えながら、沢田のいない日本での生活に思いを馳せて。


 
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