贈物
□絶対に貴方を愛さない宣言
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どくどく、血が身体中を巡っていく。僕は今生きている。こんなことを毎日僕は実感している。……いや、正確には週5日実感している。
「ひっばりくーん!つなよしくーん!」
誰もが避けて通る重厚な扉も僕には有っても無いようなもの。何事もないように僕はその扉を開き、左から飛んでくるトンファーを避け、そこから流れるような動作で綱吉君側(綱吉君はいつでも入ってすぐ右側のソファーに座っている)に座る。
「ごきげんよう!」
心の底から、そう、心の底から笑っているのに綱吉君には引きつった顔で返された。勿論正面からトンファーが飛んできたが僕の反射神経をもってすれば髪を数本犠牲にしただけで避けることが出来るのです。
「えっと…うん、」
「どうかしましたか?あ、こちら奈々さんから頂いてきましたスコーンです。」
「は!?……え、あ、うん。ありがと。」
「……なんで君が沢田の母親から貰ってきてるの。」
いまいち腑に落ちない、という表情の綱吉君にスコーンの入った紙袋を渡すと綱吉君の心のうちを読んだかのように雲雀君がやっと僕に口を利いてくれました。
「たまたま商店街で会ったので。」
「……。」
「お、お茶淹れてきます!」
綱吉君が波風立たぬ前に、と立ち上がるのを引き止めず、にっこり雲雀君に笑いかけ続ける。何か言いたそうにしているけれど結局何も言わずにふいっと視線を反らした。彼がどうでもいい、と思ったということだ。ならば御期待にお応えして好き勝手していようと思う。
「……。」
「……。」
沈黙が続く。一方は大変不機嫌そう。対する僕は上機嫌。その機嫌の差が真ん中でぐるぐる渦を巻いているかのようで大変面白い。雲雀君が僕を追い出すことを諦めたのも僥倖だし(ずっと反射神経を試され続けるものだと思っていましたよ、僕は)、もうすぐ彼の機嫌が直るかと思うとそれが目の前で見れるのが大層嬉しくもあった。
「骸は、砂糖いくつ?」
「……今日の気分は三つですね!」
「んー。」
簡易給湯室から聞こえてくる声に返事をする。と、暫くして綱吉君が覚束ない足取りながらも紅茶をトレーに載せ、こちらに戻ってきた。すると雲雀君はあからさまに不機嫌です、というのが顔に出る。今まで彼なりに我慢してきたのか、僕に対して感情を露骨に出すのが嫌だったのか、それは分からないが明らかな表情の変化に紅茶に気を取られた綱吉君が気づくはずもなく、机にトレーを置き、ソファー(勿論向かい側である僕の隣)に座ろうとする時点でもまだ気付かない。鈍い、鈍すぎます綱吉君っ!
流石にこればかりは綱吉君に合図が出来ずくふー、と溜め息が出かかりそうになったところで雲雀君が徐に立ち上がり、座る寸前の綱吉君を小脇に抱えた。
(…お?)
その様につい下世話だけれども期待を籠めて視線を送ってしまう。
「うおっ!?」
勿論綱吉君は何が何だか分かっていないが持ち上げてる人だって大概何が何だか分かっていない。彼は別に綱吉が部屋から一時退場していたことに不機嫌になっている訳ではない(綱吉君がお茶を煎れるのは習慣になってくれたようだ。が、若干不機嫌の理由でもあるかもしれない。でも、それは僕にとって良い不機嫌だ)し、よもや砂糖の数を聞かれなかったから(彼はいつも少し渋め、砂糖なしのストレートを好む。たまに一つだけ角砂糖をいれるらしいが。)でもない。では何なのかと問われても彼はきっと知らない、とまたそっぽを向くに決まっている。
「ひひひ雲雀さんっ!?」
赤くなり白くなり青くなり、忙しない綱吉君を僕が座っているのとは逆側のソファーに落としてその隣に自身も座った。予めトレーから下ろしておいた紅茶の位置通りに腰掛けてくれて僕はもうそれはそれはご満悦なのでした。
「何、気持ち悪い顔して。」
「いえ、何でもありませんよ…くふふ…」
人様にはそこそこ美形と称される顔も雲雀君からしたらいけ好かないものに違いない。…正しく言えば理由なく、ではなくて僕が少なからず綱吉君と仲が良いことと瞬殺出来ないこと、がお気に召さないに違いない。
…これだから無自覚美形君は困ります。どうして雲雀君は綱吉君が自分にメロメロ(死語)だということを分からないのでしょうか?僕なんてただの美形1なのですよ、雲雀君!
……とは言えず、心の中で思いながら今日の彼等の少しの進展に感謝してミルクティーを飲み込んだ。