贈物
□絶対に貴方を愛さない宣言
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月に何度か、だった並中訪問は日を増して増えて行き、最早毎日の事になっていた。ただ二人の間に入って場を掻き乱すだけで彼等の距離は縮まり、離れ、無意識は意識になっていった。
「あのさぁ、骸、」
「何です?」
「……何でもない。」
「なら、話しかけませんよね?何です?聞いてあげないことはありませんよ?」
「なんで上から目線なんだよお前…」
「くふふ…君より上だからですよ。」
「……うっぜぇ…!」
「で、なんです?」
「何でもないってば。」
「……雲雀君ですか?」
「………なんだよ…」
「…図星ですね?」
「……。」
「沈黙は肯定、と相場が決まっています。そうですかそうですか…くふふふふ」
「気持ち悪いぞお前。」
「綱吉君。恋ですよ、それは。」
「は、はあ…!?」
今までずっと漢字の書き取りに向けられていた視線が今日初めて骸に向けられた。
「雲雀君のことばかり考えてしまうんでしょう?毎日割り込む僕が邪魔でしょう?でも僕がいなくて会話が進まないのも嫌でしょう?そうでしょう?くふふ…」
「そっ!」
「そ?」
「そ、そそそっ、そんなこ、と…!!」
「君はお馬鹿ですが、そこまで鈍くはないでしょう?認めれば、楽になれるのですよ?」
「だだだ誰もそんなこと…!」
「残念ながら、言ってなくても君の場合顔に出てるんですよねえ。」
真向かいの席に座った役割かと思い、綱吉君の間違った漢字を訂正する。ああ、この1列全部やり直しですね、残念。そんなことは綱吉君は気付いていない。
「ぃや、でも…うぅぅぅ……」
「…認めましょう。君は落ちてしまったのですよ、恋に…ね。」
「……詩人かよ、骸。」
「認めたら、きっともう少し周りが見えるでしょう。そしてもう少し論理的に物事を考えてみるべきです。何故なのか、と。」
「何が何故、なんだよ。」
「認めますか?」
「…………認めたとしたら、たとしたら、何なんだよ。」
「どうして雲雀君がわざわざ見回りの足をこの教室で止めると思いますか?」
「…そりゃ、居残りで誰かがいたら止まるだろ。」
「彼がそんなことで立ち止まると?声をかけると?彼なら何も言わずに追い出します。」
「ま、まあ確かに…」
「それなら何故、と思いませんか?」
「わ、わかるわけないじゃん…」
「いち、君に興味がある。」
「は?興味?」
「に、最近アルコバレーノの話を雲雀君は口にしていない。」
「…そういえば…リボーンのこと最近聞いてこないかも…」
「さん、僕が君といると必ず雲雀君はご機嫌斜めになります。」
「……いや、それは…言いにくいんだけどお前が雲雀さんに嫌われてるだけ…」
「此処から考えてみたとして、」
「やっほー!ツナー!」
「!!?」
「で、ディーノさん!?」
主観が多分に入っているながらも今まさに核心をつこうとした瞬間に割って入ってきた声に思わず無様にガクンっと前のめりだった身体を崩してしまった。
「今応接室行ったら恭弥の奴いなくてよー、仕方ねーから校内をぐるぐる回ってたら丁度お前見付けてさー。偉いな、こんな時間まで勉強なんてよ。」
「え、あ、まあ…えっと…はい。」
「自慢じゃないけど、俺、お前ぐらいの時は全然勉強なんてしてな……て、お前、骸か?」
キャバッローネの種馬が屈みこんで僕を窺う気配がしたのでそこに向かって思いっきり三叉槍を突き刺す…が、あっぶね!という気の抜けた声と共に避けられる。
「マフィア風情が何の用ですか死ね。」
「落ち着けよ骸ー。今俺完全にプライベートだから。厄介な事からは遠慮してーよ。」
「そんなこと僕には関係ありません…!」
折角、折角綱吉君から雲雀君へのフラグが明示出来そうだったのに。無自覚一方通行片想いを完結する一歩が踏み出せそうだったのに…!
「…そういや、お前ら何の話してたんだ?」
不意にキャバッローネが戻した話題にぼっと綱吉君の頬に火がつく。ああ、あれだけやんややんや言っていた癖にちゃんと自覚してくれたんですね…内心で綺麗なガッツポーズを決めながら立ち上がり様にマフィア野郎を蹴り飛ばした。
「おうっわ!!」
「とりあえず、綱吉君。忘れないでくださいね。僕の問題提起と、今君の心の中のこと。」
「………忘れられたら楽。」
「くふふ、そういうものです。」
「ん?ん?ん?」
「黙ってなさい種馬。というか目障りです消えなさい。いや、消えろ。」
第一歩を喜びたい気持ちとは別にムカムカと沸き上がった感情を振り払うようにもう一度金髪の男に蹴りをお見舞いした。