贈物
□すれ違い、恋煩い。
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獄寺のお披露目式が終わり、こっそりと体育館を抜け出した沢田はため息をついた。
化粧をした獄寺は沢田や六道の時と同じくらいかそれ以上に歓迎され、体育館を出る時ももみくちゃにされていた。それの後始末を六道に頼みそっと外へ来たのだ。
(今頃は会長の話かな。)
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下の窓を開けてまたため息をついた。
(風紀委員の話までには帰ろう。)
この『華を咲かせる会』…正式には『姫制度』というが……この制度に参加させられた生徒は特典が沢山与えられるが、いくつか条件がある。
【生徒会の指示には基本的に従う】
【辞退は原則禁止】
そして………
「沢田…?」
【恋をしては、ならない】
「雲雀、さん…。」
「何してるのこんなところで。」
ふわり、と沢田のスカートが揺れた。
女顔という訳ではないが雰囲気がどことなく可愛らしい沢田は化粧をしてしまえば完璧な女の子である。
スカートが揺れる様に雲雀はドキとした。
「雲雀さんこそ…風紀委員の話が……。」
「あぁ、それ?抜けた。」
「委員長さんなのに…。」
「草壁がいる。…それにしても姫だかなんだか知らないけど騒がないで欲しいよ。」
「ごめんなさい…。」
雲雀の言葉にぐ、と言葉につまった沢田が謝ると雲雀は沢田の頭を撫でた。
「別に、君は悪くない。」
「そうなんですけど………。」
「…窓の外を見てたね。……好きな子でもいたのかい?」
雲雀の視線の先には近所にある市立の高校のグラウンドがあった。体育の授業だろうか、女子がソフトをやっている。
「あ、…いえ、別に。」
「覚えてる?」
「覚えてます【恋はしない】ですよね。」
「そう。」
【恋はしない】…姫が恋をすれば生徒の士気が著しく下がる。故に設けられた条件。
(なのに俺は…恋をしている。誰にも言えない………、恋をしてる。)
沢田はちらり、と雲雀を見た。
窓からの光を浴びキラキラと黒髪が輝く。
(…綺麗。)
沢田は中等部にいたころからずっと雲雀恭弥に恋い焦がれていた。
男同士の報われぬ恋。
それでも沢田は十分だった。廊下を歩く姿や式の挨拶のときに見られるだけで幸せだったし、想いが溢れそうな時は、恋してる相手は女性だと偽って恋愛話をすることも出来た。…だが今はそれは出来ない。
想いは、はけ口を失っても募るばかり…。
(なんで俺は女の子じゃないんだろ。)
姫になってから雲雀恭弥の存在は沢田の心の支えでもあり、心を締め付けるものでもあった。