贈物
□はっぴーばれんたいん
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月曜日。職員室に入ってすぐ、沢田は数人の教師に囲まれた。
「へ、あ、あの……」
どいてほしいんですが…と口をモゴモゴさせていると一人の教師が口を開いた。
「何故止めなかったんだ沢田君……!」
補足だが周りの教師はまだ沢田のことを先生を付けて呼ばない。先生に向いていないとでも言いたげであることを本人は知っている。
「な、何をでしょう。」
「雲雀先生だよ、雲雀先生。同じ生活指導担当だろ?確かに正式に新任になっていない準備期間の君には確かに荷が重いかもしれないが、注意するなり、なんなりあるだろう?」
「え、な、何を、ですか…?」
「知らないのかい!?今日に入って五人、五人だよ、もう五人もの生徒が彼に殴られて今、保健室にいるんだぞ!?それを何故止められんのだ!!同じ指導担当なら一緒に持ち物検査をして…」
「は、はあ…止める、ですか…」
あんなにうっとりと機嫌良さそうに笑っていた雲雀を誰が止められるだろうか…。
(あの顔を見てないから言えるのかな…)
「しかも沢田君、この指導で忙しい時期こんな遅い時間に出勤するなんて…もっと早く来て生徒の指導にあたってもらわなきゃ………だから雲雀先生も…」
「沢田君、もう少し早く来れないのかい」
「え、そういわれてもですね……」
これでも精一杯早く来てるんです…とは言い難い雰囲気に沢田は押され気味になる。
朝は苦手だ、なんてもっと言えない。
どう逃げようかなー、なんて多少切羽詰まっていると襟首をぐいっと後ろに引っ張られう、と沢田は息を詰まらせた。
「うげっ…」
「なに、その可愛いげのない声。」
「ひ、雲雀先生、苦しいん、ですが…っ」
「だから?」
「手っ手を!手を離してくださいっ!」
ぱ、と手を離されて大きく呼吸すると顔面蒼白な先生方の顔が見えた。
(なんでこんなに青白くなってるんだ?)
不思議そうに首を傾げる綱吉とは対象的に顔面蒼白の理由を知っている雲雀は元々鋭い眼光を意図的に触れれば切れる刃の様に鋭くする。
周りの教師はひっ、と悲鳴をあげる。
「そそそ、そういうことだから!」
「頼んだよ、沢田君!!」
何をどう頼まれたか納得いかず、またも首を傾げる沢田に雲雀はいつもどうり命令をくだす。
「ねえ、あれ、運んどいて。」
「え、あれって………………!?」
雲雀の席と沢田の仮の席に同じぐらいの高さの紙の束がどん、と存在を主張する。
「両方ともだからね。」
「あ、ちょっと…雲雀せんせー!!!」
さっさと職員用玄関に行ってしまった雲雀にア然となりながら仕方なく小分けにして書類を運んでいく。
「よし、あと半分っ!」
ふー、と息を吐いて最後の束を持って職員室を出て角を曲がると女子生徒二人組とすれ違った。
「あ、沢田せんせー」
「おはよー」
「おはよう、早いね。」
よいしょ、と書類を抱え直す沢田に女子生徒はあのねー、と鞄を漁った。
「沢田せんせーにあげるー」
「え、」
可愛らしくラッピングされた包装紙に沢田は二の句が告げなかった。まさか、それは
「チョコ。手作りだよー。」
「むちゃ美味しいから食べてみて。」
「あ、嬉しいけど…俺、これでも生活指導だしさ…えっと」
「そっか…じゃ雲雀せんせーには内緒。」
「そういう訳じゃないんだけど…」
「あ、今食べちゃえば?チョコ持ってきたのは内緒にしてさ。」
「だね。はい、せんせー」
綺麗な包装をといて現れたチョコレートは形も整っていてほんわりと苺の匂いが漂う上品なものだった。
「てか、せんせー荷物持ってるかさー」
「じゃあ、あーんてしてあげる。一個あんたにあげる。」
「ホント?じゃ、一個いただきまーす。」
「はい、沢田せんせー、あーん。」
口元にチョコレートを持ってこられて流石に逃げられないか、と観念した沢田は素直にチョコレートを口に含んで咀嚼した。
「あ、美味しい…」
「でしょ?ホワイトデーは期待してないからいいよっ!」
「え、ホワイトデー…」
「ホントに期待してないよ、雲雀せんせーに怒られちゃうもんね。」
「じゃあね、せんせー。」
パタパタと上履きを鳴らして走り去っていく少女たちを沢田は見送った。
(そういえば、チョコレート貰ったの初めてかも…)
年齢=彼女いない歴である沢田には貴重な体験であった。たったこれだけでこの学校で上手くやっていけそうだ、と心が軽くなっていく。
「よし、これ早く持っていこ。」
気合いをいれ、書類を持ち直すと先程よりも足も軽くなり直ぐに生活指導室についてしまった。
「これをここに置いて、よっしゃ!」
運び終わったと同時にガチャと扉が開く。
「雲雀先生、」
「今から職員会議……」
「…?雲雀先生、どうかしましたか?」
石になったかのように微動だにしなかった雲雀が沢田の声に反応したかのようにゆったりと、しかし歩幅は大きく沢田に近寄り沢田の口の端をベロリと舐めた。
「ふわっ!ひひ雲雀先生っっ!」
「……ふうん、良い度胸じゃない。」
「へ?」
「僕のものにチョコレートをあげるなんてね。」
「雲雀先生のもの…?」
雲雀の突然の行動と発言に頭がついていけてなかった沢田は気になった単語を反芻した。
「沢田綱吉、」
「…え、…あ……」
今まで一度たりとも沢田の名前を呼ばなかった雲雀がゆっくりと沢田の名前をその舌の上にのせた。
それだけで沢田の視線も心も雲雀の方へ縫い止められた。本人でも何故そうなったのか、説明は出来ないだろう。
魅せられたというのだろうか。それすら分からない。ただ、雲雀の発する言葉には、雲雀が世界のルールだと言わんばかりの重さがあった。
「君が生活指導担当になった時点で君は僕のものだ……分かるね、綱吉。」
「……はい。」
「…次は無いよ。」
にっこりと美しく妖しく笑った雲雀の言葉が全て沢田の中に沈澱していく。
ただ心臓だけがバクバクと早足に血を運んで、手にじわりと汗をかかせ、頬の血色を良くしていった。
「…はい、雲雀先生。」
「いい子だね。僕の綱吉、」
するりと頬を撫でる手がやけに冷たく感じられるのは雲雀の体温が低いからなのか沢田が熱くなっているからなのか沢田には分からなかった。
ただただ沢田は雲雀に心奪われていた。
世界が変わった愛の日
(この変化は甘い恋になるのか、)
(ほろ苦い服従となるのか)
***
ギリギリアウトっ!
しかし、バレンタイン小説と言い張りますよ。甘くないですし、パロですが。
ユリアの文才の無さしか伝わらない…。
雲雀さんの綱吉への特別が好きです。
「綱吉だけだよ、」ていうのが。
僕のもの宣言も好きです。
よって、こんなんできました。
お持ち帰りはホワイトデーまでっ!!
報告任意。
2010.02.14 ゆりあ