贈物

□未完熟果実
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いつも通りの筈の教室は、いつもとは違う空気に包まれていた。男かな?女かな?なんていう囁きはざわめきとなり、波紋が拡がっていく。それを断ち切ったのは誰もが待ち望んでいた扉の開く音だった。


「はい、静かにー…七瀬先生が産休に入られましたので、急遽、代わりの先生に暫く君達の授業を見て貰うことになりました。それじゃ、入って……」


臨時教師が入ると、先程とは違うざわめきが主に女子の方からあがる。
どうでも良さそうに眠気を誘われる陽光に身を預けかけていた生徒、沢田 綱吉もその変化にやっと机から顔を上げた。


「きゃー、え、超格好良い、どうしよ」

「やばくない、めちゃイケメンじゃん!」


と、周りの女子から興奮した小声が聞こえるのを聞き流しつつ沢田は教卓の前に立つ臨時教師を眺める。

身長は高い、と感じる程ではないが、すらりとした体つきだからか、シルエットが恐ろしいほど格好良く、白衣がよく似合う。
若いのに髪は染めず、さらりと黒髪が揺れる。男であのキューティクル…、と言いたくなる黒髪と切れ長の目もあわせて、美人としか言いようの無い美人な教師である。


(テレビとか出てそう…)

「イケメンて本気でいるんだな…」

(確かに。)


漏れ聞こえてくる男子生徒からの嫉妬を通り越した呟きに賛同しながら、沢田は名前を書く教師を見つめる。


「じゃあ、先生。あとは宜しく。」


出ていく教頭に目線だけくれて、臨時教師は持っていたチョークを置く。


「名前は雲雀。雲雀 恭弥。別に覚えなくていい。……じゃあ教科書開いて。」


淡々と授業にいこうとする雲雀に一瞬呑まれそうになりながらも女子からぼそぼそと非難の声があがる。


「えー、早くない?」

「自己紹介とかもうちょっとしても良いよねー。」


ちら、と色目が注がれる。
高校生ともなれば生徒と先生の仲は中学生の時よりも希薄になる。女子としては会話の種になる話題の一つ二つを仕入れて親密になる糸口を掴みたいらしい。


「急な産休で、自習が多かったらしいね。そんな状態で暢気に自己紹介?時間の無駄でしょ。」

(うわ、怖っ……)


ほぼ無表情で言い切ると雲雀は何事も無かったかのように、教科書のページを指定する。


(やば、生物だった…)


長年の経験上で始めの授業は半分以上自己紹介にとられるだろう、と踏んでいた沢田は急いで教科書を取り出す。

たいした回数開いていない教科書は新品の用に綺麗である。生物=睡眠時間。思考だった沢田は雲雀が来てから思考を180度変えられることとなる。


 
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