贈物

□闇に溺れるヒト
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デーチモが目を覚ました時、最初に視覚に入ったのは朝日を浴びてゆらりふわり風に踊るカーテン、真っ白なシーツと見知らぬ部屋。まるで記憶を失った後のあの朝のよう。


「あれ、俺……」


あの時と違うのは今回は直前の記憶はないものの記憶喪失ではないことだ。自分の主も、此処は何処なのかも、何しに来たのかも、記憶している。
不意に部屋の扉が開いた。


「まだそんなとこ居たの?出るよ。」

「へっ!?…え、あ…すいません、すぐ用意します!」

「ん。」


そのまま扉はぱたりと閉められた。
デーチモの頭の中は仕事のことで一杯になり先程まで考えていたことはすぐに霧散した。

少ない荷物を纏めてデーチモが寝室から出てくるまできっちりいつものスーツを着込んだ雲雀はソファーに腰掛け思案していた。
ワイシャツの襟で隠れた首筋、ガーゼの下にはくっきりと犬歯の跡が残っている。誰の、なんて今更言うことではない。


「……。」

「すいません!片付け終わりました!」

「うん。」

「いつもより大分早いですが朝食は…」

「いいよ、目的の場所はすぐだし。」

「えっ、そこに今から行くんですか!?」

「うん。本当は夜のうちにでも着いておきたかったとこだから。」

「…?そう、ですか。じゃあ車を手配します。」

「うん。……ねえ、」


そのまま荷物を持って部屋を出ていこうとするデーチモを雲雀が呼び止める。勿論デーチモは振り替えるが見えるのはソファーに腰掛けた主の後ろ姿のみ。


「……何ですか?」

「これ、あげる。」

「えっ、えっ!?」


無造作に投げて寄越されたそれをわたわたと慌てながらキャッチし、掌の上に乗った小さなそれを眺める。


「こ、れは…?」


首を傾げると雲雀がデーチモに視線を向ける。


「見て分からないの?リングだよ。」

「……は、はあ。」


確かに主の言う通りデーチモの掌の上に乗っているのはリングである。シンプルな銀が象った円環の内側には濃い紫の小さな石が埋め込まれている。


「見たことない?最近のものじゃないんだけど。」

「えっと……見たこと、ないです。何に使うものですか?」

「もう完成間近だよ。儀式は終わってる。」

「……なんで、これを俺に…?」

「察しがついてるでしょ?」

「……俺が着けたら、完成するんですか?」

「うん。」


雲雀は立ち上がり、続きは車のなかで話す、とデーチモに視線を投げた。


「……車、手配してきます。」


今度こそ部屋をあとにしたデーチモに続き雲雀も部屋を出た。この手を離したくない、と胸のうちで呟きながら。


 
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