贈物
□闇に溺れるヒト
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車に乗り込んで暫くしたあと、デーチモが耐えきれないように口を開いた。
「……で、一体コレってなんなんですか?」
「だから、リングだよ。」
「……。」
「馬鹿にしてないよ。」
呆れたように呟いて雲雀はデーチモの方を向いた。
「何の儀式が施してあるんですか?」
再度掌の上に視線を向けデーチモは雲雀に話を促す。中立者は人に非ず、魔物に非ず、まさしく中立な存在だ。魔力に振り回されない身体を持ちながらも特異な能力のない人間。彼らは中立者の機関に入り儀式による魔術を使い、魔物を牽制し人を圧する。そのトップが雲雀だ。
魔術の存在も知っていたし、数々の儀式も見て、協力してきた。だがこのリングには見覚えはない。
「魔力分散。」
「分散?」
「そう。それには対のリングがあって、その両者で魔力が平等に分散される。」
「俺の魔力が、いるってことですか。」
「……何あっさり納得してるの。」
「え、だって…え?」
「今までと違って魔力を一部、て訳じゃない。魔力を分けるってことはその間にリンクが結ばれて互いに干渉し合うことになるんだよ?相手の寿命にも君の寿命にも変化が現れるし、最悪身体の傷が両者共通のものになることだってあるかもしれない。第一君の力が衰えるんだよ?」
普段口数少ない雲雀の台詞量の多さに目を丸くしつつデーチモは何でもないように頷いた。
「…は、はあ……でも、知ってる人ならわ…俺は別に………」
何人か術者に知り合いも出来たし、その中なら魔力を共有するのも良いだろう。雲雀の話を聞いても特にデーチモは主が言う程深刻には受け止めていなかった。
「……………僕だよ。」
先程の台詞量が嘘のように雲雀は一言漏らすと背もたれにもたれかかり、前髪を掻き上げた。
「………え?」
「僕だよ、君とリンクを結ぶのは。」
「そう、なんですか?じゃあ大丈夫です。」
「………馬鹿。」
「え!?な、何でですか!?」
「僕なら大丈夫、て君馬鹿なの。僕が変なことに君の魔力を使ったらどうするの?」
「……使うんですか?」
「使うわけないでしょ。」
「そうですよね。だから大丈夫です。」
「……何なの、その自信。」
「だって、ご主人様ですから。」
「…君の主人なら君をどうにかしていいの?変な話だね。」
「わ…俺は貴方が主人であることに誇りも持ってますし、俺は……ご主人様の為に、力を使いたいです。ご主人様の力になりたいです。……きっと草壁さん達だって同じように答えます。」
「……。」
淡く微笑むデーチモの顔はいつもドジばかり踏んでいる姿はなく確かに自信が溢れていた。
「…………左手の、薬指。」
「え?」
「そのリングを着けるとこ。一番心臓に近い指。」
「あ、はい!」
「……着けたら、半永久に取れないよ。いいの。」
「大丈夫です。」
「………そう。」
デーチモが指にリングを嵌めたのを確認して雲雀もリングを指に嵌める。一瞬淡い紫の筋がリング同士を結んだあと霧散した。
「これだけ、ですか。」
「まあね。」
リングをまじまじと見詰めているデーチモを横目に雲雀は見え始めた目的地に目を細めた。
「もうすぐ着くよ。」
「はい。」
一本伸びた道の先の先の先に、堅牢な古城が静かに聳えていた。そう、魔物界最長寿、最高の権力を持つバンパイアの城が。