贈物

□あなたという恋を
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長く続いた雨のあと、久方振りに帰ってきた青い空はもうこれから始まる夏の色をしていた。青く遠い空に視線を向けると夏のむっとした熱気を感じるようだ。


「御主人様っ!」


後ろから聞こえてきた声と上履きの音に振り向く。声の主は鈍い足でなんとか御主人様、雲雀恭弥に追い付いて、肩で呼吸をした。


「廊下は走るんじゃないよ、綱吉。」


汗で張り付いた前髪を払ってやると照れたように綱吉は笑った。


「すみません、御主人様の後ろ姿が見えたのでつい…」

「ちゃんと振り向いたでしょ。」

「だって、御主人様は足が速いんですもん…て、何持ってるんですか?」

「……ああ、ゴミだよ。燃えるごみ。」

「そうなんですか?捨ててきましょうか?」

「いいよ、そもそも君、もう屋敷に帰ってる時間だろ、どうしてまだ校舎にいるの。」

「あ、はい。御主人様から預かった書類を職員会議が終わるまで待って渡して来たんです。それで今から帰ろうかと……」

「会議なんて待ってなくてもいいんだよ……哲はもう帰ったのか…じゃあ僕も帰るから応接室の書類全部纏めといて。持って帰る。」

「え、あ、はい!分かりました!」

「…ほら、早く行って。」

「はい!」


慌てて綱吉が踵を返して応接室への道を辿るとふわりと高校指定ではないスカートと白いエプロンが風に踊った。彼女が来ているのは世間一般で言うメイド服というものだ。しかしビジュアルはかなり異なる。無駄に布を重ねたものではなくシンプルで清潔感を持った言うなれば使用人の制服、と言った方がしっくりくるような古式ゆかしいメイド服だ。

本来ならば綱吉だってこの高校の制服を着ていても可笑しくない年齢だ。しかし彼女は今、主である雲雀恭弥のお供としてこの高校に足を運んでいるに過ぎない。

彼女がそれを望んで雲雀家の使用人になったのだから中卒だろうと何だろうと雲雀には関係ない。使えるなら使うまでだ。……と、言ってはみるものの綱吉は雲雀お気に入りの使用人だ。長く傍にいる哲と一二を争うぐらいには気に入っている。


「いくら僕でも君にこれを捨ててこいとは言えないね、」


校舎裏のごみステーションに向かいながら雲雀は独り言のように呟いた。黒いごみ袋の中には独特の匂いが染み付いたシーツとタオルがぐしゃぐしゃに丸められて詰まっている。口は縛ってあるがドジな彼女のことだ、校舎裏の木の枝に袋を引っ掻けて破ってしまったり、こけて袋の中身を散乱させてしまったり、なんてことを普通にしそうだ。

綱吉にはこの手の知識が薄そうだが(知識も一般教養も少し足りない子だから)何年かしていつか知ったときになってから引かれるのもそれはそれで遠慮したいところだった。


(ま、あの子がその手の知識を手にいれるのに何年かかるんだ、て話なんだけどね。)


男女の営みなどあってもせいぜい洋楽映画の知識ぐらいだろうと断言できてしまいそうな年下の使用人の顔を思い浮かべ一人雲雀は苦い顔をした。


 
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