贈物

□あなたという恋を
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雲雀がゴミを捨てて雲雀の根城である応接室に戻ると綱吉が帰り支度を終えてソファーに座っていた。


「帰るよ。」

「はい!」


書類の束を入れた茶封筒を腕に抱き、綱吉が雲雀のあとを短い足でてくてくと着いていく。約三歩分開けたその距離が一番雲雀は落ち着いた。彼は手ぶらだがフェミニストでもなければ綱吉の友人でもないため荷物を持つような行為はしない。雲雀の手となり足となるのが綱吉の役目だからだ。それを奪う方が余程酷だろう。生憎綱吉は足は持っていないから送迎役は出来ないのだが。

二人がこうして歩く姿は頻繁には見ないもののあることではあるので並中生達も触らぬ神になんとやらで視線ぐらいは向けても堂々と見るような愚行はしない。それでも視線を一瞬でも向けてしまうのは二人とも見目が良いから、等、知らぬは本人達だけである。


「……。」

「……。」


帰宅中は無言の方が多い。
初めは綱吉もこの空気に萎縮したものだが今はこれが普通なのだとある種の悟りを開いて黙って着いていっている。ただ黒い後ろ姿を見失わないよう足を動かすだけだ。気を抜くと雲雀はふらりと横道に反れて、返り血を浴びて帰ってくるのだからおちおち余所見も出来ない。

だから彼女としては出来ればご主人と帰るのは遠慮したいところなのだが格好のせいかはたまた本人の意識せぬ容姿のせいか一人で歩いていると面倒なのによくよく絡まれるから雲雀も哲も心配して帰宅はどちらかと一緒にすることになっているのだ。雲雀と帰宅すると屋敷に辿り着くまで緊張が絶えない。


「…じゃあ、僕は仕事するから。」

「はい。」


パタン、と雲雀の仕事部屋の扉が閉まるとやっと息をつける。高校生なのに自室も仕事部屋もあるなんてなんとも贅沢なことだが明治の洋館風なこの建物は広く、使用人も必要最低限なので部屋は有り余っているし、雲雀は仕事部屋を持つだけの仕事もしているから何ら違和感はない。

ここで綱吉の仕事も休憩になる。食事をしたり同僚と話したり、まあ好き勝手に過ごす。夜の10時までは完全にプライベートな時間だ。使用人用の大テーブルで同じく休憩中の夜間組と食事をして風呂に浸かり、暫し眠ってから10時からまた仕事である。


「蒸し暑……」


広くはない自室の窓を開けて綱吉は靴も脱がずにベットに倒れ込んだ。その頬を生温い風が優しく撫でていった。


 
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