贈物
□優しい恋の話をしよう
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まだ授業終了まで十分ほどあるが、恐らく走っているのだろうとろとろとした足音が廊下でしている。雲雀は溜め息をつきながら応接室の扉を開けた。
「綱吉、廊下は走らないの、て君のスピードじゃ走ってるって言わないかな?」
「ひ、ひどい。」
案の定、扉の向こうにいたのは雲雀の幼なじみの姿。授業の用具を持ったまま、あわあわと焦っている沢田を雲雀は応接室の中に招き入れる。
「で、どうかしたの?」
「あう……あ、あのね?」
「うん、何。ああ、ペナルティのこと?」
「いや…それも気になるんだけど、えっと……たんとうちょくにゅーに言うと…」
「単刀直入に言うと?」
「あの、ね、その…」
「早く言いな。このままじゃ次の授業始まるよ。」
「…………て。」
「ん?」
「ホック、直して。」
「……何処の?」
「…………言えない。」
頬を赤らめて教科書とノートをぎゅっと抱き締める沢田を見て何となく察してしまった雲雀は遠い目をした。
(察してしまった僕も僕だけど)
「そういうのさ、女子に頼みなよ。一応友達いるんでしょ。」
「一応て言わないで、て言うかそんなの恥ずかしくて頼めないよう……」
「…………。」
「恭ちゃん、授業が始まっちゃう、ん、だけ、ど…」
「それが人にものを頼む態度?……ほら、後ろ向きなよ。」
「ごめん……」
後ろを向いた反動で沢田の柔らかい長めの髪が揺れる。自分から望んで得た状況ではないのに悪い事をしてる気がして、しかも何故か無防備な背中にどぎまぎしてしまった雲雀はなるべく素っ気ない態度を心掛ける。
「綱吉、シャツくらい自分であげてよ。」
「あ、ごめん……」
なるべく肌が露出しないようにチラリと見える肌を見ないように、やはりどぎまぎしながら服の中に手をいれる。
「詰襟のとおんなじ感じで直してくれたらいいから。」
「……わかった。」
「ごめんね、恭ちゃん。」
「自分でやればいいと、思うけどね。」
「さっきも移動教室でね、渡り廊下通ったから手が冷えちゃって……冷たいの嫌じゃん。」
「………。」
「呆れた…?」
「………とうの昔から。」
「ははは…」
見えないせいか、着けにくいのか、なかなかホックは直らない。間が気まずくて雲雀にしては饒舌に口を動かす。
「…やっぱ女子に頼んだ方が、僕は良かったと思うけど。」
「さっきも言ったじゃん。恥ずかしいし…なんて言えばいいの?」
「…さあ、ね。」
(同性に頼むのは恥ずかしくて僕に頼むのは平気なの…?)
複雑な心境になりながら作業を続ける。そういえば前にも同じようなことをさせられたな、と現実逃避じみた回想に入る。
そして唐突に理解した。
「ああ、そうか。」
「ん?」
ちら、と沢田が後ろに視線を向けるがそれは気にせず、雲雀は後ろからいきなり沢田の胸を掴んだ。
「わっ!何してるの!」
「色気のない声だね、君。」
「いやいやいや、今はそんな事気にしてられないっ!!何してんの!?」
「口に出して言わせる気?」
「逆に恥ずかしいからやっぱ止めて……」
「…君、胸大きくなったんじゃない?」
「ななななな何を!!?」
「下着があってないから外れるし、直し難いんだよ。」
「そ、そうなの…?うん。じゃあ新しいの買いにいく……。」
「…うん。……ほら、直った。」
「ありがと…」
「ペナルティ、忘れないでね。」
「う、うん………ももも、もう行くっ!!!」
「サボるんじゃないよ。」
最初に見たときより真っ赤になった沢田の頬を雲雀は見逃さなかった。どぎまぎさせられた復讐が出来た気がして何となく雲雀は満足した。