贈物

□優しい恋の話をしよう
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他愛もないところから恋愛というのは始まってしまうのだろうか?一言で始まるならばもっと早くに始めておけば良かったと思ってしまった雲雀は重症なのかもしれない。


「あのさ、恭ちゃん、」

「何。」

「唇、触って良い?」

「なんで?」


横に立った沢田に目もくれずに持っているファイルの資料を読み続ける雲雀の周りをぐるりと沢田は回る。


「女の子と男の子じゃ柔らかさが違うんだって。気にならない?」

「気にならない。」

「えー」


うろちょろする沢田を雲雀は避けて革張りのソファーに座るも諦めず沢田は言葉を続ける。


「なんで違うのかな?とか気にならない?」

「ならない。」

「そもそも本当なのかな、とかは?」

「気にならない。」

「うー」


後ろから雲雀に抱きつきながら沢田はまだごにょごにょとこだわっている。いい加減鬱陶しいと思う前に雲雀の心は動揺していた。


(……この状況は、何。)


首に回った華奢な腕だとか頭に僅かにかかる頭の重みだとか……それより何より、


(胸が、あたってるんだけど…)


数日前に軽い流れで触ってしまった胸の感触を背中に感じる。


「綱吉。」

「なに?」

「……。」


沢田が気にしていないからこそ尚更自分が情けなくなってくる。相手が沢田でなければ気にせずに仕事に集中出来たのだろうか?しかし沢田以外にこんな事をしてくる人もいないのだから結果的にこうなったら仕事には集中出来ないことになる。


「綱吉、」

「だから、なに?」

「……邪魔。」

「邪魔してないもん。恭ちゃんが気にならないとか言うから。」

「…気にならないて言ったから邪魔してるんだろ。」

「ちょっと。」


またぎゅむ、と抱きつく。
息苦しさは確かに感じないけれど最大の妨害ではあった。


「わかった、綱吉。」

「ん?」


沢田は腕を緩めて雲雀の頭の上に乗せていた自分の頭を雲雀の顔を覗き込むように移動させる。ちら、と沢田が視界に入ったのを確認した雲雀は腕が緩んだのを良いことに顔をずらして沢田の唇に自分の唇を押し付ける。


「…へ?」

「これで分かっただろ。もう邪魔しないでね。」

「え、…っえええぇっっ!?」

「煩いなぁ。分からなかったの?」

「………っな、」


慌て出した沢田の声にやはり何故だか満足して雲雀は再度書類に意識を集中させる。


「き、…」

「何?」

「恭ちゃんの…馬鹿……」

「……綱吉?」


さっきまでキャンキャン吠えていた沢田が急に大人しくなったのが不気味で後ろを向くと前と同じくらいか、それ以上に顔を真っ赤にさせた沢田が雲雀を上目遣い気味に睨み付けていた。


「ちゅうとか、……馬鹿。」

「……もしかして、」

「初めてだよ、馬鹿っ!!」


単語が脳に浸透した途端雲雀の頬が熱をもつ。初めてだとかそういうことは全く気にしていなかった。思いつくままに触れた唇が今更震える。


「………恭ちゃんは、初めてじゃ、ないの?」

「馬鹿。」

「何それ…!」

「君以外に、しないし。」

「…っ!……………帰る!!」


軽い鞄を引っ付かんで、今まで雲雀が見てきたなかで一番最速のスピードで沢田は応接室をあとにしてしまった。

残された雲雀は一人で溜め息をつく。窓の外には沈みきりそうな夕日。


「今日はもう少し此処にいようかな。」


せめて頬の赤みが引くまで。
そう考えて一文字も頭に入らない書類に視線だけくれた。

あんな言葉がきっかけになるくらいならもっと良い雰囲気で、なんてロマンチストのような事を考えてしまった雲雀はやはり重症のようだ。


 
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