百神いろいろ置き場
□ミエリッキとアレス
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「アタシはアナタが嫌いです」
「そうか」
「アタシは森を侵すアナタが嫌いです」
「そうか」
「アタシは戦争で森を侵すアナタが嫌いです」
「……そうか」
「アタシは戦争するひとが大嫌いです。だからアナタが大嫌いです」
「…………」
「でも戦争してないときのアナタは好きです」
「……そうか」
「アタシは戦争してないときの優しいアナタが好きです」
「…………」
「だからアナタが戦争しないならアタシはアナタを好きでいられます」
「…………」
「アタシはアナタを好きでいたいんです。だから戦争しないでください」
「すまないがそれは出来ない」
「どうしてですか」
「私が軍神だからだ」
「どうして軍神だと戦争をしないでいられないのですか」
「私が軍神として存在する意味は戦争にこそある。戦争をしない軍神に意味などない。私の存在は戦いの中でのみ確立される。戦争が私を生かしているも同然」
「ならアタシはアナタを好きになることができません。アタシは戦争が大嫌い。アナタは戦争をしないと意味がない。アタシとアナタは相容れないのですね」
「そういうことになる」
「わかりました。でもアタシはアナタが戦争をしないでいられる日が来るのを待ちます」
「…………」
「アタシはいつでもここで待ってます。だから戦争しないでいられる日が来たら真っ先にアタシに会いに来てください」
「………………約束はできない」
「出来なくたっていいんです。アタシが待っていることをアナタが覚えていてくれれば」
「…………わかった」
親鹿に謝っておいてほしい、すまなかった。
血濡れた小鹿の骸を寂しげな目で見つめ、そう言い残して軍神の背中は遠ざかる。
「アナタのせいじゃないのに」
小鹿の死は人間が放った矢のせいで、軍神は何もしていないのに。
でもその人間は戦争で食糧難になって小鹿を狙ったのだろう。
だから軍神は自分のせいだと言った。
「アナタは本当に優しいひとですね」
少女は小鹿を見つめ呟いた。
「いつかアナタとふたりで笑える日が来ればいいのに」
すでに見えない背中へ、言葉を投げた。
――言葉は、何にも当たらず静寂に落ちた。