戦国(イクサ)の言葉
□阿呆に付ける薬もなし
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「貴様は馬鹿か」
無数の水滴が屋根に降り注いでいる。
「馬鹿言うな」
湿気がたまる。
「ならば阿呆か」
強い風の音が耳につく。
「………。」
「無言は肯定ととるぞ」
2人の声と、筆が紙に文字を書いていく音が妙に静かに感じる。
「………。」
「…なるほど、阿呆か」
「そうじゃないだろ」
2人の声に合わせ、灯がゆれる。
「ならば何だ?阿呆に何も言うことはない」
「だから阿呆って……」
はあ、と溜め息をつき、がしがしと頭をかく。
「…つれねぇなぁ…せっかく来てやったのによ」
「来てほしくもない、それどころか消えてほしいぐらいだ」
「相変らずだな…」
今までせっせと働いていた手がぴたりと止まり、かわりに緑の和服に身を包んだ者が背後にいる男に問い掛ける。
「なぜ来た」
「どこに?」
「ここにだ」
ここは毛利家の領地である。
背後にいる左目に眼帯をした男は、ここから海を挟んだ地にいるはずだ。
「なぜいる」
「…まあ…どうしても行きたくてよ」
「何?」
こんな嵐の日にか、と言うと、ああ、とうなずく。
「……阿呆か」
「さっきお前が阿呆だって言ってただろ」
「肯定するのだな?」
「…………。」
…墓穴を掘った。
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