01/10の日記
21:10
永遠の螺旋の中、僕等は 4
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※連載
「………佐助、」
テレビの中の音が室内に響く中、呼び掛ければその従兄弟兼幼なじみは「ん?」と振り向いた。
今この時間は政宗殿はいない。
「人間でいう健康診断ってやつに行ってくる」と言っていた。
「リンゴが食べたい」
「……あのね旦那、今は勝手に何かを食べちゃ駄目っていうのは聞いたよね?」
「聞いている」
医師から、食べ物は病院から出るものぐらいしか与えないと言われてしまったのだ。
折角この前政宗殿が持ってきてくださったのに、果物がたくさん入ったバスケットはぽつりと棚に飾ってあった。
自分は女だというのに「旦那」と呼び掛けてくる従兄弟は、ベッドの隣の椅子に腰掛けた。
「だったら我慢しよ?病気が治ったらまた食べられるから」
「食べられるのか?」
「え」
「……食べられる日が、来るのか?」
バスケットの中の果物達は寂しそうにこちらを見ている。
だが食べられない、
食べられない、
食べられ、
「………本当に、この病は治るのか…?」
自然と暗くなる声、
そして心臓のあたりは重りがあるかのような感覚。
いつも笑ってくれる従兄弟の顔が凍り付いたのがわかった。
「…………治るよ、今までも治してきた…でしょ?」
「……知っている、」
「なら、」
「この病が以前のものとは比べ物にならないほど重いことなど、」
だって皆の皆が違う。
佐助はいつもよりもずっと気遣ってくれる、
医師はいつもよりもずっと真剣な表情で診察をしている、
自分はいつもよりもずっと苦しい。
そして、
政宗殿はいつも、
悲しそうな笑みしか見せてくれなくなった――――。
「…もう、わかっておるのだ」
今、自分は「終わり」に近づいているのであろう。
人間は誰にも平等に終わりが来る、
…けれど、
政宗殿だけは違うのだ。
あのひとには「終わり」はない。
永遠の中を、今までも今もこれからもずっと一人で生きていくのだ。
……あのひとは、
またひとりぼっちになる。
「……くるしい、」
あのひとのことを、
政宗殿のことを想うと、
苦しい。
自分はまだ言いだせずにいる。
政宗殿への想いを。
……政宗殿が、すきと。
だって怖かった。
必ず拒絶されると思っていた。
否、今も思っている。
あのひとは、優しいから。
「………佐助、」
「ん……?」
「リンゴが、食べたい」
佐助がハッと顔をあげる。
両眼が潤み、頬はうっすらと赤くなっていた。
そして、棚のバスケットの果物達も、従兄弟と同じ表情をしているように見える。
これだけは、自分の目頭が熱いからかもしれない。
「……食べたいのだ…」
何かが一筋、頬へと流れ落ちる。
あのひとはまだ、帰ってこなかった。
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