01/13の日記

22:29
永遠の螺旋の中、僕等は 5
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※連載
※長い



「病院」に戻ったのは、メンテナンスの次の日になってしまった。
とは言えどまだ「検査をしただけ」であり、結果は後日ということになった。



上の階に上がり、幸村が待つ病室へと向かう。
早く彼女の顔が見たい、と歩く速度を早めていた時であった。




俺はある人物と出会った。





―――


「…ごめんね引き止めて」
「いや」


静かな待合室にて渡された缶を開け、中身を飲む。
この味は「コーヒー」というものだ。

隣にいる橙色の髪の人物は俺のものと同じ缶を手にしていた。


「…政宗さん、だっけ」
「ああ」
「いつも旦那がお世話になってます」


確か名は「佐助」。
幸村の従兄弟だという彼は俺に話し掛けてきたのだ。



幸村の病室の前、
深刻な表情で立っていた佐助が、俺を見るなり突如呼び掛けたのだ。


『…ひょっとして、政宗さん?』


そして今に至る。



「ごめんね、そんな安いコーヒーで」
「さっきから謝ってばかりだな?」
「そう?」


へらりと笑う彼を横目にそのコーヒーを一口。
よく笑うところは幸村と似ている。
その笑い方は違うが。


「で、何が目的だ」
「ん?」
「俺を呼んだ理由」


おそらくこの男は俺が不死であることを知らないだろう。
ならばなぜ俺を呼んだのかがわからない。
自分としては早く幸村に会いに行きたいのだ。

しかし、返答は予想外だった。


「…特にない」
「ない?」
「ただ単に旦那が言う“政宗殿”と話がしたかっただけ」


政宗殿。
幸村が呼び掛けてくれる、俺の名。

知らぬうちに話をしていたのかと、初対面の男ではなく病室の少女に驚いた。


「よく話してくれるんだよ、政宗さんのこと」
「…そうか、」
「すごく楽しそうに、すごく悲しそうにね」


そして男はコーヒーを一口。
つられて俺も飲むと、苦さが口一杯に広がった。


「…泣いたんです、旦那。滅多に泣かないひとだったのに」
「ないた?」
「リンゴが食べたいって…ウサギの可愛い形のリンゴが、」


幸村は、今満足に食事をとれない。
前にむいたウサギ形のリンゴをえらく気に入っていたのを思いだした。


だがそれだけでは、幸村が涙を流した理由がわからない。
しかしその思いは一気に吹き飛ぶことになる。



「…もう二度と食べれないのでは、って」



それは哀しみだった。



「旦那は、もう自分の病が治らないって思ってる……もう二度と好きなように物を食べたりできない、って」
「幸村、が」
「悲しそうに笑うのが目に焼き付いちゃって……離れない、」



どうして旦那なんだろう。



佐助が呟いた声からは悔しさ、悲しさ、怒り。
様々な思いが入り交じっていた。

両目を片手で抑える動作がなぜか痛々しい。
気を紛らわすように缶の中身を飲んだが、苦い液体が更に複雑さを増しただけだった。


「旦那は、まだ生きたいって…」
「…ああ、」
「政宗さんとも、まだまだ、一緒に、いたいって」
「………」
「ずっと、言っ……て」


遂に雫が佐助の瞳から零れ落ちた。
床に落ちる度に、心に鉛が一つ、二つ、


「……俺は、アイツを死なせたくはねえ」
「ならっ……」
「だが方法があるのかどうかすら知らない」


記憶中を探し回っても、その病は見つからない。
ただ弱っていく幸村の姿を見ているのが嫌で、
それでも何の進歩もないそれに、諦めの念を俺は出した。


「……なら、なんで探さないの」
「探しきれるのか?…世界は広い」
「それでも旦那はあんたのことを博識だって自慢してた!!」
「見つけることとは違う!」
「それなら……っ、

何で諦めるの?!」


缶二つ、地面に転がる。
じわじわと広がる液体と同じく、お互いの思いも広がっていく気がした。

…現に、今。
俺は佐助に胸座を掴まれている。


「……なんですぐに諦めるの?!友達なんでしょ、」
「友達、」


慣れない響きに思わず顔をしかめる。
関係をもつ者達特有のその言葉は、本来自分とは無縁のものだったのだ。


しかし俺が欲しいのは、
そのような関係ではない。


「……友達、か」
「何」
「アイツはそう思ってんのかね……俺とは違って」


何を言って、
そう呟く佐助の瞳には動揺や困惑。


「…いや、アンタには関係無い」
「……………ねえ、」


手を離され、彼は俯く。
まるで俺に表情を見られたくないような動作だった。




「…政宗、さんは、
旦那のことは友達って…?」


「……友達?まさか」


コーヒー缶を拾い上げ、近くの箱に投げ入れる。
カコンと良い音がした。



「そんなヤワな想いじゃねえよ」







―――――――――――

思ったより長くなってしまいました…

佐助は幸村の政宗への思いに気づいてたりします。

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