MONO MOLTOR 第七番目のLogos

□第10章:旅芸人Roiと奇妙な観客達
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僕の周りに人が集う☆ 「チガウ…」 僕が彼らの元へ行く……
僕は器用な人気者☆ 「ノンノン…」 僕は身売りの笑われ者〜

闇夜の奥より出(いず)り踊る、ド派手な衣装、道化師(ピエロ)の男。
紫に彩られた仮面の涙は、もはや誰もの笑いを誘う出物(ネタ)でしかない。

ああ、今更その真意に気付く者など……。
彼は旅する道化師芸人、孤独な男、
ロイエンタール・マセノア。

★  ★  ★

僕の故郷は市都Cellca。海を臨んだ港地区(ポートセルカ)。パピー(父)は大工で、マミー(母)は設計士。
僕もそんな職に就くはずだったけど、あいにく僕は線を真っ直ぐ引けない、円を描けない、
何をさせても不器用な子供だったさ……。

皆が僕を馬鹿にする。失敗ばかりの人生さ。孤独と夕暮れ、鍵っ子帰路。
カモメの鳴き声、ああ感傷。カモメ、カモ……う・る・さーい!!!!

「マミー、学校で上手くやれないのさ。パピー、いつも独りぼっちで寂しいよ。
カモメー、僕は今にも孤独に押し潰されてしまうそうだー」
「何を言ってるのロイエンタール! 貴方は独りではないわ! 強くなって、自立なさい!」
「何を言ってるんだロイエンタール! お前は多くの人達に支えられて生きているのだ! 自立するのだ!」
「なんぞ……」

多くの人達に支えられた孤独。メガパスカル級の期待。
立派にジリツという気高い理想と、短き細腕。
誰もが希望へと羽ばたき去る時、ロイは独り、取り残されてしまった。

そんなある日の事だった。ボクは悪いヤツに追われて、雨道を走っていたのさ。
傾斜で滑って前のめりに、その先に何があったか? う☆こさ!!!! べちゃー!! 
ボクの顔面、汚物にまみれ。今にも心ははち切れそう、でも、
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
誰もが笑ったそうボクを。笑顔になったボクを見て。
そして手を差し伸べてくれたのさ 、「面白かった」って。
この時ピピン! と来たのだ 「これだ!」 って……

ボクが盥で自分を殴ると、皆が僕に大注目! ボクがド派手に転倒すれば、ホラこの通りの大喝采! 
どうだいマミー&パピー! ボクは立派にジリツシタ!!
……。 …………。 気付いたら、マミーとパピーは家にもどこにも、いなくなっていたのさ。  何故に?
心の中にふつふつと沸き上がる怒り。ボクは、ボクは、駄目な子じゃない。ジリツ出来る子、見てて欲しい。
★  ★  ★

「ヨッテラッシャイ、ミテラッシャーイ、オモシロイモノ、ミセマスヨー!」

夕夜に響く道化師の唄。誰もが集まり彼囲う。
さぁ今宵もご覧あれ、温もり求めて身を殺ぎ踊る、彼の脅威の大芸道を!

僕が痛む彼女が笑う。僕が苦しむ彼が笑う。僕が叫ぶと歓喜が上がって、
痛みで笑う奇妙な観客達(おきゃく)。でも大事な金ずるなんだ〜

『あー、誰かが僕に言ってくれたら……、「君はもう十分頑張った」もしくは「面白くない」と、
そしたらこの仕事を辞める決心がつくのさー……』

はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

『あー、声に出してなんて、恥ずかしくて言えやしないけど……、誰か僕を愛しておくれ。
ああ誰か、このおバカな僕を叱っておくれー……』

はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

………あははー
……


★  ★  ★

公演後の後始末を済ませ、ロイは崩れるように腰を下ろした。
今日の稼ぎを覗いてみれば、サビた空き缶浅い底、小銭が寂しげに転がっている。

「いててて……はぁ、少し公演を自重しないと身が持たないなこりゃー、
でも、もっと金を稼がにゃ、明日食うものが無いのだー……むひ〜」
「……ねぇー!!! ちょっといいかしら!」

雷鳴の様な声に振り返ると、そこには褐色の汚い身形の少女がいた。
幼い風貌だが、その様子はなんとも力強い。片足に噛んだままの鉄輪と、鎖の切れ端。

「さっきの何?ちーーーっとも面白くなかったんだけど!!! なんでそんなに自分を傷つけるの? 皆アンタをバカにしてるだけよ?」
「何だい君は、クレーマーか!? これが僕のやり方、生き方さ! 君は僕の人生のクレーマーなのか!?」
「そうじゃないわ。アンタの芸は、その、見てて痛いのよ! どうにかなさい!」
「なっ! ……なんだとムッキー!! 小娘が小生意気に小ざかしい小言をー! 君に僕の何が解るというのだー!!」
「解らないわよ! 別に解りたくもないのよー! そんなことより……ねぇ、アタシと組もうよ。アンタに足りないもの、補ってあげてもいいけどね〜」
「なぬ? 君も芸をするのかい?」
「んーん。あのねアンタに足りないものはLogos、つまりお頭(つむ)だよ。アタシも一人身なのよね……けど賢いから!? きっと役に立つと思うわ!」
「けーーっ、偉そうに何をー! 僕は一人でやってゆけるのさ! 今までもそうして来たし、これからもそうするのさ! し……シッシッシッ!」
「アタシはジュノ。暴君統べる砂漠の大国、変な死神からも賢く逃げ延びてここまで来たのよ、えへん!」
「レオナードぉ!? 随分遠い所から来たんだねぇ……」
「でねでね、アタシ、マジックできるんだ! アンタに教えてあげてもいーよ!」
「そんな器用な事、僕には到底出来ないさー……」
「練習すればいいじゃない! 一緒にやったらきっと楽しいから!……で、分け前は半分もらうからね! アタシは自立しなければならないの!」

「……君は、強いんだねぇ………」

「んー、コンビ名は『美女と奇人』ね!」
「いや! ……やややや!! 何勝手に決めてるのさー?!(笑)」

追手を掻い潜り、無事山脈地帯を越していたジュノ。
孤独に寄り添い合う様な出会いは、彼らに如何なる運命(みらい)を齎すのか。それは大地にも解らぬ……


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