□文□
□うやむや
1ページ/2ページ
燕が孵る秋
傘をささないで、
ある日告る。
うやむや
もやもや
止めて
その返事だけは
したくない。
■うやむや■
迂闊だった。
28にもなって今更。
あの日から、頭の片隅に彼女の偶像が離れない。
瞼の裏にはいつも微笑んだ彼女がいる。
そんな現状に陥った自分を掛け布団で覆い、朝の日差しを遮った。
「ぅおーぃ新八ぃ。朝飯まだアルかぁ?」
「もう直ぐですよ。全く…少しは手伝ってよ神楽ちゃん。」
待ちきれんばかりに台所を覗き込む神楽に対して新八は返事を返した。
「神楽ちゃん、銀さん起こしてきて下さい。その間に用意しときますから。」
「わかったアル!」
少女は勢いよく台所から飛び出し、銀時のいる部屋へと駆け出した。
「銀ちゃーん起きるヨロシっっ!!!」
神楽はその勢いで銀時の上に飛び乗った。
いつもならぐえっ!とか言いながら起き上がる銀時。
しかしそれでも動かない銀時を見て神楽は新八に叫んだ。
「新八ぃー銀ちゃん起きないアル。死んでるアル。」
様子を知らない新八はため息をつきながら居間に朝食を並び終えた。
「しょうがないですねー銀さんは。先にご飯頂いちゃいましょっか。」
「うん!銀ちゃんなんかぶっちゃけどーでもいいネ!」
銀時を放置して、神楽は満面の笑みで朝食の置かれた居間へと駆け出す。
神楽の去っていく足音を聞きながら銀時は少々咳き込み、掛け布団から顔を出した。朝の光が銀色の髪に反射する。
腹は減ってる。
だけど、ほらあれだ。
新八になんて言やぁいい?
一応あいつの弟である新八。
シスコンの領域を軽く超えちゃってる分、
「君のお姉サンが好きです」
なんて事言えば、顔を青白くして卒倒しかねない。
悩む銀時の元に食事の準備を済ませた問題の彼が近づいてくる。
それに気づいた銀時は再び布団の中に潜り込んだ。
「銀さん、まったく何時まで寝てるんですか。ただでさえオッサンなんだから朝くらいダラダラしないでピシッと起きて下さいよ!」
新八は銀時の体を覆っていた掛け布団を一気に剥いだ。
うずくまった銀時が露になる。
「早くしないとご飯冷めちゃいますよ、銀さん。」
「…ォウ。」
今ひとつ新八に対する言葉が決まらないまま、とりあえず食卓へと向かった。
「あ、銀ちゃん。えっと、銀ちゃんのおかず定春が食べてしまったアルね。残念。」
「嘘つけ、お前食ったんだろ」
「ヒドイ銀ちゃん!私が食べた証拠ないヨ!証拠がないと逮捕出来ないって火サスで言ってたヨ!」
「いや、逮捕する気全くねぇから。」
神楽とのやり取りのおかげでだんだんといつもの万事屋の雰囲気が流れはじめる。
「そういえば銀さん」
それを切り裂く新八の一言に一瞬ドキッとする銀時。
「なんだ?」
「今日姉上が来ます。」
その瞬間銀時はブーッッと口に含んだ味噌汁を新八めがけて吹いた。
「うっわ!!汚っ!!ちょ銀さんなにやってるんすかもう!!」
その行動に驚いた新八が慌てて台所からタオルを持ってくる。
「わりぃ。気管に入った。」
「もう、三十路近いんですから気をつけて下さいよ!眼鏡がべちょべちょだよこれ…」
新八はそのタオルで忙しく銀時の放ったそれをゴシゴシと拭き取っていく。
「んで」
「はい?」
「姉ちゃんくんだろ。何しにくんだ?」
「んー…そういえばそれは聞いてないですね。」
「…ふぅん。」
*************
刻々と瞬く間に時間は過ぎていく。
やがて夕時になり、曇天の空を見上げながら銀時は溜め息をついた。
直に彼女は来る。
この不安定な気持ちを伝えるべきか否か。
そんな事を考えているとピンポーンと聞き慣れた音が聞こえた。
「姉御アルっ!」
酢こんぶをくわえたまま神楽は一目散に玄関へと駆け出した。
「あら神楽ちゃん今晩は。」
「姉御ぉ〜待ってたアルっ!!」
そういいながら神楽は妙に飛びつく。
「嬉しいわ、私も神楽ちゃんにすっごく逢いたかったのよ。」
「ホント?!えへへ…嬉しいアルWW」
いつもはクソ生意気な神楽も妙の前だと甘えた子供のようになる。
その様子をみながら銀時は妙に声をかけた。
「…よぅ、家にくるなんて珍しいじゃねぇか。何か用でもあるのか。」
(違う、そんな事を言いたいんじゃない。)
「用がなくちゃお邪魔しちゃいけないのかしら?」
(いやだから、しっかりしろ俺!)
「用がねぇなら帰れ。」
(おい、なんて事いっちゃってんの俺…)
「…………神楽ちゃんの顔見にきただけです。用は済みました。それじゃさよなら。」