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□つないだ手と手
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いつものように、妙は仕事を終え家路に着く。
早々と化粧を落とし、羽織っていた召し物を脱ぎ寝間着に着替え床についた。
明日は仕事はない。
その代わり大事な約束があった。
「覚えてるかしら、あの人。」
ふふっと笑いながら、早々と仕事で疲れた重い体を休めた。
■つないだ手と手■
ふと目を覚まし時間をみるとお昼の12時18分。
約束は14時からだったのを思い出し、妙は飛び起きた。
お風呂に入り、薄めの化粧をしてお気に入りの着物を着る。
あの人が「可愛い」と言ってくれた着物だ。
時刻はすでに13時28分。
身支度を済ませると戸締まりを確認し待ち合わせをした甘味所へ向かう。
13時54分。
待ち合わせ場所についた妙はあたりを見回す。
奥の席でスプーンをくわえながらひらひらと手を振る銀髪の男が見えた。
「早いのね、銀さん。」
「これでも僕、5分前行動を心掛けてる良い子ですから。」
「早くパフェ食べたかっただけでしょ?」
チョコレートパフェを頬張る銀時をみてクスクスと笑い、妙は席についた。
「今日はどこへ連れて行ってくれるのかしら?」
「お前の行きたいトコ。」
「ちょっと、誘っておいて決めてないの?」
「んなの成り行きだ。」
「…もう。」
パフェを食べ終えた銀時は律儀に口元を拭き、「行こう」と言って席を立つ。
「ちょ…銀さん?」
スタスタと歩く銀時に妙は慌ててついて行く。
「ねぇ、待ってってば!」
「…だぁーほら、手貸せ。」
銀時は振り返り、右手を差し伸べた。
妙はその右手を戸惑いながらも受け取る。
もしかしたら一生お互いの体温さえ知らなかったかもしれない。
だけど今、
ほらね
温かい。
行く宛も無く、ふらふらと歩き回った。そして着いた先には。
「ここ…は?」
「見てのとーり。」
「…大江戸マート?」
妙は訳が分からず唖然としている。
「覚えてねぇ?」
問いかけてくる銀時にはっと思い出す。
「…初めて逢った場所。」
「当たり。」
妙の頭を撫でながら銀時は目を細めて笑う。
「いやーあん時はびびった。初対面の美人なおねーさんが目の前で弟をボコボコに殴る光景は、少年の心をもった銀さんには刺激が強すぎました。」
「やだ、そんな事あったかしら。つか余計な事覚えてんじゃねよ、この糖尿野郎が」
ふふふと笑いながら拳を振りかざす妙を銀時は必死に抑える。
「いや、だから」
「なによ。」
更に拳に力が入る。
「スーパーから出てきたお前みた瞬間、すっげぇクリティカルヒットしたの」
「…」
すっと妙の力が抜けた。それに対して銀時は安堵する。
「だから、わかんねーかな。…ヒトメボレ…?つうのかな。いや、そん時はそんな感情分かんなかったけど…よく考えたら…なんつうか…えっと」
頬を掻きながら適切な言葉を考える銀時の右手を妙はぎゅっと握った。
「…バカ。」
「スンマセン。」
銀時は紅く染まった妙の頬に左手を添える。
「やっぱ、お前すげぇ可愛い。」
「…もぅ」
遠回しなのか正直なのか分からない銀時に戸惑いながらも、その優しい眼差しに吸い込まれていく。
「…こんな美人捕まえておいて、不幸にしたら許しませんから。」
そう言うと妙は銀時の襟元を自分の元へと引き寄せた。
その瞬間左頬に温かい感触とチュッという小さな音が左耳に届いた。
「さ、大江戸マートで買い物して帰るわよ!新ちゃんと神楽ちゃんに卵焼き作ってあげなきゃね!」
銀時を離れ1人大江戸マートの中へと入っていく妙。
「………………………反則だってぇの」
銀時は熱くなった左頬をさらに熱くさせその場にうずくまった。
空にはうっすらと月が浮かんでいた。
今夜は十六夜。
この後何が起きてもそれは月の性にしよう。
男は決心した。
fin
あとがき
初デートの設定です。最後らへんちょっと銀さんヘタってます。笑
銀さんは恋に臆病で、お妙ちゃんはそんな銀さん苛めるのが好き。
みたいなノリが個人的に好きです。
続くかも。