現代物
□いかれこれ
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<<merry chrutmas>>
クリスマスは一緒に過ごしたいとダダをこねる男を振り切って漫才コンビ『テルオハルオ』のハルオこと晴之は、実家に戻ってたまの親孝行に励んでいた。といっても休みを取った両親と鍋をつついたりする程度だ。
今まで出演した番組を録画してきちんと整理してくれたお礼代わりに、番組の裏話やプロデューサーに褒められた舞台や番組の話をして、いっぱしの芸人として振る舞った。
最後まで反対していた母は今では『テルオハルオ』の一番のファンになって、この前出したCDで少し雑誌などに取り上げられたのを、本当に喜んでくれている。買わなくてもいい、と言ったのにわざわざ予約までしてくれて…ああ、親ってありがたいなぁなんて、面と向っては恥かしくてとてもじゃないが言えないことを思った。
そんなとっても澄んだ気持ちで床についた…はずだったのだ。
「お休み〜」
親子三人で楽しく飲み、父親の仕事時間が朝早いことも合って早目に切り上げて、二階の自室に上がった。午前零時、心地よい酔いと火照りでそのままベッドへなだれ込んでぐっすりと寝ていた。
眠りついてどれくらいたった頃だろうか。
バサバサ木が揺れる音がした。
ゴソゴソ…。
コンコン、コンコン。
意識がぼんやりとあったが、どうせ風でも吹いて窓を叩いているんだろうと思って、薄く開いた瞼をもう一度閉じた。
が、またも。
コンコン…。
コンコン…。
コンコン…。
さすがに三度も窓を叩く音に風ではないとハルオも渋々目を開けて、ベッドから僅かに頭を出して窓を見た。
窓ガラスにへばりついている、どこかで見たことのあるような顔…。
いや、毎日ずうううーっと飽きるほど見ても、全然見飽きない男前の顔がそこに、あった。
「なっ…」
何だってこんな所にテルオが。
そう思ったが外は寒い、すぐに中へ入れてやるために窓を開けた。「ほら」と手を差し出してテルオの手を掴む。
引っ張り上げられハルオの部屋の中へ転がり込んだ。
ベッド脇の電気スタンドのスイッチを入れて明かりの下で、十時間前に別れたはずの男の姿を見た。
赤いジャケットとズボン…縁取りは白いモコモコ…つんつん立っている短い頭には赤い三角帽…。ご丁寧に肩には白い袋まで下げている。
はあああ〜と大きなテルオにも分かるようなため息を吐く。
それを物ともせずにアンポンタンの恋人は笑顔を見せる。
「恋人は〜サンタクロース〜って歌があるやろ?」
街じゃあ若い女の子からきゃあきゃあ言われる男前の顔が、ハルオの鼻先まで近づいて微妙に音程の狂ったクリスマスソングを口ずさむ…。
あまり他の人間、特にテルオに夢を見ている女の子には見せられない姿かもしれない…。
「だからってな…お前」
キリキリと痛むこめかみを指で抑えながら、ハルオはベッドから起き上がった。