幻想物

□無題
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「僕の気持受け取って下さい」

「受取を拒否します」

「付き合って下さい、御願いします」

「嫌です」

「一目見て決めました、お友達から…いえ本当はマイパートナーになって欲しいんですが…その、まずはよろしく御願いします!」

「お断りします」

「あなたが好きです、あなたしか見えない、僕の運命の人です!」

「視野狭窄か視力低下でしょう眼科へ行かれたらいいでしょう。唾が飛んできて気持悪いのでそれ以上顔を近づけないで下さい」

「僕の視力は裸眼で両目とも2.0です、間違えたりしてません。それに…!!見て下さいっ森の木々だって僕とあなたを祝福してあのように葉を揺らし、小鳥も二人の愛を祝福して囀ってる!」

「大幅に嘘があります。台風が近づいて風で葉が揺れているだけ、第一小鳥はおろか烏さえ囀ってなどいません。すべてあなたの幻聴幻覚幻影、思い込みです。心の病は早目の治療が肝心です、今すぐ専門の治療を受けるべきです」

「……ぐっ、そ、そんな。…恋の病は…どんな名医でも治せないある意味不治の病ともいうべき難病ですが…。ああ、でもそういうあなたの冷たい所も素敵ですうっとりぞくぞくするッ。悶え死ぬ〜〜〜〜〜!」

「………………」

全く…勘弁して欲しい!くだくだしい言葉を並び立てて身悶えする大柄の男の姿は、私の視界を遮るだけでなく気分まで悪化させる。折角の昼休みだというのに…ゆっくり休めない。
忌々しい闖入者を睨み付けると、ボンっと火を吹いたように顔を赤らめた。それなりに整っていた男の顔はあはあと息も荒く、目も血走っていて…変質者に該当したので、私は即座に股間を蹴り上げ、その場から走り去った。勿論、全速力で!


運動不足の体には急な走りは堪えて、私は息切れと膝の震えによれよれと地面に座り込んだ。幸いにも追い駆けて来ない、いや関係者以外立ち入り禁止で入って来れないので、息が整うまでその場にいることにする。

それにしても今日でもう一月近くなる。毎日毎日花束とプレゼントを携え、あの気持の悪い台詞を吐く男に付き纏われている。…一体、私が何をしたというのか!
地味に倹しくをモットーする日常が音を立てて崩れていく。受け取らない受け取れと押し問答を繰り返すして、私は花束とプレゼントを受け取らされた。
だが生憎と私は草花もプレゼント、多分甘い匂いがするので菓子類だろうが一切の興味がない。

手を離して落ちたそれらにべったり私の足跡を付けて男に返したが、男は怒らなかった。怒らないどころか……可愛い足だ石膏で足型取らせて貰ってもいいですか、駄目ですか。なら是非僕の腹と背中をその足で踏んで下さい御願いします、と懇願…さ、れ…た。

へしゃげて足跡のついたプレゼントと萎れた花束に頬擦りし、大事そうに持ち帰った、…のは…見なかった事にした、のだ…。
それまでに充分疲労困憊し、精神的に限界だったから。


思えばそれが悪かったのかもしれない…。

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