現代物
□くせになりそう/くせになる
1ページ/7ページ
夏の照り付ける太陽の熱光線から、ほんのりとした秋の日差しへ移行しようとしている。
大きな窓から零れる日差しが頬を照らし長い睫毛が影を作り、望の容貌を引き立たせて絵画のような雰囲気を作るのだ。
澄ました表情をしていたが、まだ日中は暑く望は大きく襟を開けてパタパタと下敷きであおいだ。
大抵こうやると今まで厳しい表情をしていた者でも、ぽ〜っとなって望の胸元を見て真っ赤になる。
ところが、今回は違った。
いくら望がなまめかしい姿態をして見ても、いっこうに反応しない。
反応しないどころか目もくれない!!反対に嫌そな表情で望を見るのだ。
今まで男女問わず、望の可憐な容姿と仕種で言うがままに操って来たのに…。
このうすらデカイ無表情極まりない男にはっ。
どうしてなんだよっ。
にっこり笑ったらみ〜んな、「もうしょうがないね」って言ってくれた。
それがそれが!!!!
「早くしろよ。こんなのも解けないのか?お前ちゃんと授業聞いてるのか」
口汚い言葉を使って、バシンと頭を叩かれた。
「いたっ」
涙目で叩かれた頭をさすって、きっと睨んだが…効果なし。
「こんなの痛くねーの。加減してんだから、大げさすぎだってお前」
ううっ。望はてんで相手にされず、口唇を噛み締めた。
河島望は評判の美少年、性格も温厚で可憐な容姿に見合った優しい性格。学校でもその評判は良く、誰からも愛されていた。
というのは表向きの顔で、望は自分の容姿やそれが相手に及ぼす影響力をよく理解していた。
だからにっこりと笑いかけて掃除をサボったり、宿題やレポートを提出しなくても良かった。大人たちにも、それは充分に通用したから。
だが高校に上がるとさすがに勉強が追いつかなくなり、望に甘い両親もこれではいけないと不安に思ったのだろう。
ある日、家庭教師を連れて来た。
医大の四回生で寺田と母は言った。見た目はどこにでもいそうな飄々とした感じでこれならチョロイと思った。優しそうで飄々としたのどか〜な雰囲気なのは、両親のいる前だけだった。二人っきりになった途端に、豹変した。
数学の問題がどうやっても解けなくて、あ〜ぁ、わかんな〜いと放り出した望の頬に火が飛んだ。
バシンッ。
初め望は何が起こったのか分からなかった。呆然と寺田を見つめ返した。そして、だんだん頬が痛み出して、涙が出て自分が叩かれたことを理解した。
「痛いっ歯が折れたっ。ひどいよ、何するんだっ」
赤くはれた頬を右手で押さえて抗議の声を上げた。
すると、ふふんと笑って「これくらいで歯は折れないし、せいぜい口の中切るくらいだな」と冷たく言い放ち、なおかつ「いつまでそんな顔してんだよ。次の門題するぞ」と事も無げに言った。
それ以来、望にとっての寺田は使えない人間=敵となった。
この寺田を何とかしないと望の生活はめちゃめちゃになってしまう。
いくら医大の四回生で優秀なのかも知れないが、可憐で可愛い望の顔を叩く人間なんて、絶対に存在してはならないのである。