現代物

□another day
1ページ/17ページ

公園内の一番奥にあるベンチ、そこに腰掛けて小一時間ほどぼんやり日光浴をする。

そして正午前になるとナップザックからミネラルウォーターとピルケースを取り出す。

ロジャーの日課は、決められた時間に決められた量の薬を飲むこと、だ。



ゴクゴクと数個のカプセルとミネラルウォーターを飲み干し濡れた口元を手の甲で拭う。

嘔吐感と倦怠感を堪え、ふうっとため息を吐いて膝を叩いてから、ベンチから立ち上がる。

約三時間に及ぶ日向ぼっこと散歩を終えてアパートへと元来た道を帰っていく。

そして外出から帰ってきたら帽子と上着を脱いで、すぐに洗面所へと向かい必ずうがいと手洗いをする。風邪は万病だ、神経質になりすぎだとは分かっているが、念入りに顔や手を洗ってからシャワーを浴びて、汚れと疲れを落とす。水気を拭きとって体を冷やさないように注意して、タイマーをセットしてベッドに横になる。

午前九時ジャストにベルが鳴るようにセットしているがいつも、その前に目が覚めている。いや、熟睡というものをしていないからだろう。薬の副作用で眠りが浅くて二三時間おきに目が覚めて、時計を見てまた眠りにつく…。



ジリジリとベルが鳴る前にロジャーは時計のスイッチをオフに切り替えてベッドから這い出す。だるくてぼんやりとした頭で洗面所に向かい、鏡に映る顔色の悪い男の顔。

伸び放題の髪は肩まで、大きな目に痩せた頬と尖った顎がさらにロジャーを頼りなく幼く見せる。

今年の誕生日でちょうど十九才になる。

最も誕生日は十二月だから、それまでロジャーが生きていればの話で…。

自分の言葉に苦い笑みを浮かべた。



誕生日を祝うなんて、もうここ何年もしていない。

それ以前に日に日に動くこと、食べることに対しての興味が失せていく。それをどうにかしようと周囲は躍起になって、新しく出来たショッピングモールやレストランへ誘ってくれる。

ボランティア団体にご同病の友人たち。

その気持ちは本当に嬉しいと思う、ありがたいとも…。

だが正直な所、ロジャーはそんな所に行きたくもなかった、煩わしい。

体重も増減がないから着る服にも困っていないし、特に食べたいと思う料理もない。強いて言えばあっさりとした物がまだマシというだけ。

ロジャーが誘いを理由をつけて何度か断っているうちに、友人たちも諦めたのか何も言わなくなった。
ただ、心配そうにロジャーを見ていた。

それでいいと思った。

それで。

だってもうじき自分は死ぬのだから。





十七になったばかりで、いっぱしの大人を気取って打ったドラッグ。

注射針の回し打ちは危険だと散々テレビのニュースが言っていたのに…。

ドラッグの切れる禁断症状に勝てなくて、床に落ちていた注射器をそのまま使った。

右腕に突き刺してドラッグを体の中に入れたあの時の、ベッドでは味わえない恍惚とする瞬間。

何物にも替えがたかったのは紛れもない真実だ。

だがそのたった一回の快楽のためにロジャーが失った物は大きかった。

ロジャーの未来と若い男としての健康な体。

家族とはその前から疎遠だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ