現代物
□another day
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家出を繰り返した息子に、両親は冷ややかだった。
いや、ジュニアハイスクール時代の悪友に誘われるまま、万引きをしてハイスクールを放校になった時、すでに親子の会話はなかった。
典型的な田舎の保守的な父と母には、ロジャーが何故非行に走ったかなど考えもつかなかったのだろう。ゴミか何か不快なものを見る目つきで、警察官に連れて来られた息子を見た父、ライアン。
その傍らで必死で十字を切って悪魔払いの祈祷の言葉をつぶやく母、ティタム。
一度もゲイであるとこに気づいて、悩み苦しんだロジャーの心情を顧みることはなかった。
ふたりの頭の中にあるのはキャロルのことばかりだった。三つ上の姉、優しくて綺麗で…ライアンとティタム自慢の娘。たった十五才で天国へ召されたキャロル、誰もが彼女を愛していた。
もちろんロジャーも姉を愛していた。優しくて唯一、家族の中でロジャーの言葉を聞いてくれる存在だった。さり気なく夕食時、テストでAダッシュをとったことを話題にしてくれた。
キャロルの口添えで、やっとライアンとティタムの意識がロジャーに移って、よくやったと褒めた。そして次のペーパーテストで同じようにAダッシュを取ったら、ロジャーが欲しいと思っていたゲームを買ってやるとライアンは約束した。
ロジャーは必死になって毎日、勉強した。ゲームが欲しいからだけではなくライアンとティタムに自分という存在を、認めてもらいたかった。褒めてもらいたかった…ふたりの子どもはキャロルだけじゃなく、ロジャーもいると…。ロジャーの努力の甲斐あって、テストはほぼ満点だった。
けれどロジャーの希望は叶わなかった…キャロルがその年、不慮の事故で死んだからだ。
父と母の嘆き様は凄まじかった。
母は寝込み父は仕事だと家を留守がちにした…ロジャーは哀しむ間もなかった。ヒステリーを起こす母に処方された鎮静剤を飲ませ、慣れない手つきでオートミールを作り食べさせた。結局、ひとくちも口をつけて貰えず、ゴミ箱行きになったが…。
そんな毎日にうんざりして家を出た。
当然深夜、ティーンエイジャーが路上をうろついていれば通報される。何度も繰り返しては、父と母との距離は広がる一方だった。
ロジャーは一度でいいから、話し掛けてもらいたかっただけだった。
優しく話し掛けてもらいたかった。
姉に払っていた関心を自分にも与えて欲しかった。
嫌なものを見るように見るのではなく、どうしてそんなことをしたのかを聞いて欲しかった。
諦めきれなくて誘われるままに万引きをした、ドラッグもやった…。
何も得られなかった。
さらに溝は深くなるばかりだった。
耐え切れなくて家を出た。
家を出た金も腕力もない十代のゲイの少年が日々の糧を得る…何ができるか、何をしたか。
後ろ盾もない何もない少年ができることは限られている。
ドラッグの密売人、売春、恐喝、強盗。
幸か不幸かロジャーは顔が良かったから、強盗や恐喝といった暴力行為はしなかった。できなかったといった方が正しいかもしれない。
ゲイだという精神面での自覚はあったものの、性に関してはまったくの未経験で子どもだった。最初の晩に親切ごかしで声を掛けて来た男にあっさりとレイプされた。パッと見た表情や声が、大人の男でどことなくだが、父に似ていた…。
だから信用した…。
信用して安心しきってその日の晩、男の部屋に泊まった。
ドアを閉めたとたんに圧し掛かかられた。生臭い息が顔に近付いて…。泣いてもわめいても誰も助けてくれなかった。圧倒的な暴力の前にロジャーは無力だった。