現代物
□another day
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レイプされてしばらくしてから色々な男と寝たが、一度として感じなかった。勃たなかったのだ。
性に関して幼いところあるロジャーには、排泄行為に近い苦行にしか思えなかった。
そして学んだことは、善意は存在しないということ。
食事や寝る所を、とロジャーに声を掛けてくる者は、見返りを要求した。
そのたびに差し出してきた。
代価となるのならと足を開いて言われるままに舐めた。
体を売って暮らす日々。
ドラッグの量も増えて自分だけは大丈夫だと思い上がり、お定まりのジャンキーになっていた。食べていくために売っていた体がいつしか、ドラッグを買う金のために変わるのはそう時間がかからなかった。
気がついた時には遅かった、体中が震え唸り声を上げて禁断症状に苦しんだ。
言われるままに何でもやった。
何でも…。
路上で客待ちをしていたらボランティア団体に声を掛けられHIV検査を受けるよう促されて、ポジティブだと判明して、今に至っている…。
ほとんど生えていないひげを一応は剃り、ぼさぼさの髪をブラシで梳く。
洗いざらしシャツと擦り切れたジーンズを身に着けて、栄養補助食品を幾つか口に運んでから、薬を飲む。
すべての薬を飲み終えて、時計を見ると十時を針が射している。
慌ててアパートの部屋を出て、地下鉄の駅へと向かった。
そして、ボランティア団体が紹介してくれたクリニックに毎月通っている。無料で診てくれる良心的かつ、信仰伝道の場。検査をして処方された薬の説明を受けて、飲む順番を覚えて…変わることなく繰り返される質問。
「調子はどうだい、ロジャー。何か変わったこと、気づいたことは」
ロジャーの答えは決まっている。
「いいえ。特にかわったことはありません」
医者はロジャーの答えに満足して頷いて、診察は終わる。儀礼と何ら変わりのない。
ロジャーはもう、諦めている。
このまま朽ちて行くことに、ひとりでいることに。
それでもやはりT細胞が増減したとか斑点が出てきたとか、患者たちの会話に意識を集中させてしまう。まだ自分は生きていたいと、そう思っているのか…自分で自分をロジャーは嘲笑った。
生きていたって何もないのに…。
誰からも必要とされていない。
愛されていないのに…。
親でさえも、ロジャーを見放した。
あの優しい姉は、もういない。