現代物
□くせになりそう/くせになる
2ページ/7ページ
それからの日々は寺田との戦いだった。
まず、手始めに薄着をして体の線を強調して見た。黒の短パンにぴっちりとしたTシャツ。細い腰や白い肌を見せて、のぼせさせようとしたが…ダメだった。寺田はまったく興味を示さず、「今日はそんなに暑いのか?」と言っただけだった。
反対に望の体が底冷えてしまって、恥かしい話しばらくトイレに通うことになった…。
薄着に懲りて次に実行したのが、寺田に体を密着させることだった。寺田の太股に手を置いて、望の華奢な体をすり寄せてにっこりと笑いかけた。
ところが寺田は、「暑苦しい」とひと言で片付けてしまった。
めげそうになるのを必死でこらえて、寺田の顔に自分の顔を寄せて見たが「気持ち悪い」と望はばっさりと切り捨てられたのだ!
それが美少年望の誰でも自分の言うことを聞く、という今までの実績、およびプライドをいたく傷つけた。
いつか必ず僕の言うことを聞かせてやるんだからっと硬く決意をした。
家庭教師で来るようになって三ヶ月が立った。
相変わらず、寺田のペースで日々が過ぎていた。月・木と寺田は望の英語と数学を見て、隔週で土曜日に化学など…その時々に応じて寺田が問題集を開いて、望に解かせている。
もう地獄の責め苦、特訓だった。おかげでふっくらとした曲線をかたどっていた天使の頬(と学校では呼ばれている)が少し鋭くなってしまった。前期テストではあまり成果が出なかったために、反省しろと部屋中の雑誌やCDやビデオテープを捨てられた。大事にしていたグレイのポスターも望の前で、ぐしゃぐしゃにされてゴミ箱に捨てられた。
「ひどいよっ何の権利があってそんなこと…」と抗議したが、「成績が上がらないお前が悪い。ちゃんと勉強してれば、こんなことにはなんねーの」と相手にされない。
両親にあまりに寺田が厳しすぎくてイヤダと泣きついたが、「何言ってるの。寺田君は優しい人でしょう」とはなから望の言葉を信じないのだ…。
望お得意の猫かぶりの上を行く寺田の外面の良さの前に、成すすべもないまま期末テストが間近となり、ますます容赦ない指導が始まった。
「ほら、違うだろ!何でそこに他動詞が来るんだよ」
「…だって」
「だってじゃねーだろ。そこつづり間違ってるし!ちゃんと出る単してんのか?」
容赦ない言葉がざくざくと望の繊細な心に突き刺さる。もう本当にこいつ大キライ!!
くっと涙のにじんだ瞳で寺田を睨んだが、ふふんと鼻で笑われてしまい、「ウソ泣きはきかねーの」と冷たく言われた。
「ほら次はこれやって」
「うう…」
中世かどっかの家来と主人みたいだ、こんな。こんな目にあうなんてっ。
過去分詞に受動態…延々繰り返される罵倒と説明に涙しながら、問題集を解いて行った。
二時間はしっかり経っただろう。さすがの寺田も声が枯れていた。
「…今日はここまで、だいぶ覚えたな。いいか!これを忘れんなよ」
ほとんど脅しているような口調に、こくこくと望は頷くのがやっとだった。
期末までの一ヶ月、じっくりねちっこくしっかりと寺田に叩き込まれて、試験週間に入った頃には分からない所がずい分無くなっていた。
苦手な数学の方程式も少しは書けるようになった。これなら記入しているというので部分点はもらえるかも知れない。チンプンカンプンの英語も、単語を覚えたから直訳だが長文を訳せるようになった。
あの鬼みたいなのを追っ払いたいから、とにかく成績を上げて他の家庭教師に替えてもらいたい、その一心で望の勉強も力が入った。
期末試験の日程が望のクラスは英語からで、内心ドキドキ緊張した。だが、予想していた問題が出て、かなり書き込めることが出来た。これなら部分点はもちろん、正解で結構いい点がもらえるかも知れない。