現代物

□君の涙に虹を見た…
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「大体ね、給料私より、低いくせに何を考えて車なんて買い換えんのよぅっ!!まだ二百万貯まってへんのよ〜アホ!」

「そうそう…うちも同じ同じ…でも車でしょ?ならまだマシやわ。こっちはフィギアやもん…もう同じような人形アホみたいに集めて…えー加減にしてって感じ…」

「…それはそれで大変やなぁ。もう、私のんも、体弱いくせに蝮ドリンクやらへんなもんを買うてもて…押し入れ開けたら出てくる出てくるで…」

「うわー」

「あ、ねぇねぇ東くんはどないなん。上手いこといってんの?」

「えっ、そそそ…そのぉ、最近お仕事忙しいらしくって…あんまりお話とかもできてな…」

「え〜〜〜〜ぇ。何ソレ〜〜」

いっせいにブーイングが上がる。



もうすっかりと東に男の恋人がいるというのは社内の主だった女子たちは、すでにご存知だった…。本人たちは必死で隠していたつもりなのだが、如何せんふたりとも態度にしっかりと出ていた。

東が失敗して泣いているとどこからともなく、コピー機のメンテナンスに来た古川が肩を抱き寄せて慰めている所を目撃されていた。

知らぬは本人ばかりなりという…ちょっと頭の沸いているふたりだった。

だがそのおかげで、今まで東に辛く当っていた女子社員たちが優しくなったのも事実で…。東は最近あまりトイレで泣くことも減っていた。東は、自分のミスが減ったんだ!と単純に喜んでいたが。

それ以前に、女子たちと一緒にいて違和感なく溶け込めていることにも、本人は気づいていない…。


めいめい、届いた天津飯やラーメンを食べながらさらに話は踏み込んだものになっていった。



「年下でしょう?気をつけないとうっかり横から盗られちゃうわよ!」

「そうよ〜〜。生活力のある男は早いんだから〜。あっと思った時にはもう、遅いのよぅっ」

「そこそこ見栄え良くって給料貰ってて優しい…そら〜もう、皆いくでしょがっ!」

「そうそう」

「えぇ……そ、そんな」

そんなことりょーくんに限ってないもんっ、と心の中で反論するが、気の弱い東は言い返せない。先輩女子社員たちの勝手な言葉に、東はおろおろと視線を泳がせる。元々東は超奥手、子どもで誰とも付き合ったことはなく、恋愛経験ゼロに近いため、女たちの格好の餌食もといネタになってしまう。

東は一気に青ざめて小さな顔を曇らせた。目にはうるうる大きな涙が浮かび、そらも〜小動物好きには堪えられません!という表情で、いじめて下さいっオーラーをぷんぷんと発散している。

さすがに女たちも、東の半べそ状態を見て、言いすぎたかも知れないと取り成すように、菓子を勧める辺りすっかり東の扱いに手慣れている。



「ほら、これなんか美味しいで。食べてみ?」と冷蔵庫から六花亭のチョコレートやケーニヒスクローネのダッテルンを出してくる。

菓子を見た途端、ぱっと顔が明るくなり喜色満面の笑みで、今泣いた烏状態で一心不乱に菓子をほうばっている。どこまでもお子さまで根っから深く物事を考えない男である。

その何だかな〜な東のお子さまな様子にちょっぴり三竹の、見えない触角がぴんぴんと動く。

「なぁ、なぁ。東くん知ってる?」

ふふんっと大人の笑みを浮かべて、口中にお菓子のクズをつけた東に向かって、ちょっぴり意地悪く言う。

「あんな。ちょいちょい…こっちこっち」



手招きして、ほよほよとつられたように立ち上がった東を部屋の奥にある間仕切りで作られた簡易の給湯室に、東の袖を掴んで引っ張り込む。
わわわっと声を上げて東は三竹に引っ張り込まれて、しばらくの間そこから出てこなかった。

何度か「おおっ」とか「うそっ」とか、東の叫び声とも感嘆の声ともつかないものが上がって、周囲の先輩女子社員たちは首を一体何を?こっそりと間仕切りまで行くがすぐに、三竹に見つかってしまい目で注意され、すごすごと自分の席まで戻る。

そんな攻防を繰り返すこと十五分、そろそろ昼休みの時間も終わりで、男子社員たちが戻ってくる頃になってやっと、東と三竹が間仕切りから顔を出した。

東の頬は何やら真っ赤に染まっておりぐうっと拳を握り締めて似合わないのに、ガッツポーズなんぞを取っている。そして三竹はというと、腕組みをして満足そうな笑みを浮かべていた。



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