現代物

□君の涙に虹を見た…
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以来一ヶ月とちょっと、どうも古川の機嫌が悪い。怒りんぼさんなのはお付き合いした時から分かってたけど、お膝抱っこも肩車もしてくれなくなったの〜〜〜どうすればいいの〜〜〜っと、千代は友紀に泣きついたのだ。

かわゆい年上の弟、として千代ノ介をこよなく愛す友紀は千代ノ介には見えないようにこっそり「しめた!」にんまり笑って。

店員にごり押しされてうっかり買ってしまって、でも、勝次にはどうしても言い出せなくて…。処分に困った友紀は、燦然と輝くロゴマークが美しい、ブルカリのキーリングを「男同士のマリッジリング」で「好きやぁ、ゆう気持ちは、ちゃんと形で分かるようにせな、なぁ?」と言い包めて、千代ノ介に売ったのだった。

さすがにちょびっとだけ気が咎めたので…お友だち価格として、購入金額の15パーセント引きの1万3千円で。おかげで友紀の涼しい財布は一気に暖かくなった。これでおっさんの欲しがってたんが買えるわ…バレンタインは物入りやもんなぁ。ホワイトデーは三倍返しが基本やから、楽しみやなぁ〜。どこまでもあきんど友紀だった…。




…北風ぴいぷう吹いている〜俺の財布もすっからかんのすかんぴい〜ああ寒いな〜寒いな〜。



「……ふ、古川さん?」

ひくっと頬を引き攣らせた大野誠のこちらを窺うような視線を感じ、古川は自分の心のつぶやきをうっかり声に出していたことを悟った。慌ててその場の凍ったような空気を繕うため、虚ろな表情から一転して、にこやかな笑みを見せた。が、遅かったようで美若食品株式会社の総務課係長大野誠が心配そうに眉を寄せていた。

あの、と少し言いにくそうにしていたが手にしていた決算書を机に置いて、きょろきょろと辺りを見まわした。

「東のことなら、大丈夫ですよ。最近はミスもずい分減ったし、お使いも安心して任せられるようになりましたから」

心配いりませんからね、と大野は古川の顔を見て、にっこりと微笑んだ。

「…あ、あぁー?あ、はい…」

「本当ですよ?女子社員たちからのうけもいいですし…」

古川の覇気に欠けた返答に、大野はいかに東が総務課で足を引っ張らなくなったかを説いてくれる。確かにそれはめでたい、あの東が人並みにお使いに行けるようになったなど、本当に嬉しい。いつもなら、三週間前ならきっと大野のその言葉を古川は大喜びで聞いただろう。大野は古川の分かりやすい反応を見越して口にしたのだ。親バカならぬ彼氏バカみたいに頬を緩め、うっとり携帯の待ち受け画面を見せる古川を…。

が、古川の表情は相変わらずどんよりしたままで、失礼しますと早々と部屋から出て行ったのだ。





古川のさえない表情の原因は今からほぼ、三週間前のことだった。

恋人と三年目にして初…!!!!!

興奮しきった古川は鼻息荒く東の服を引き脱がして、その白い身体を思う様見た。今までだって何度か見てはいるが。そう、甘酒一杯で泥酔した千代ノ介を介抱するために服を脱がせたり、温泉で溺れかけた千代ノ介を助けたり…などなど。だが、それはのっぴきならない状況というやつでの、ご対面で。まじまじと見れる状況では到底なかった。だから、もうた〜〜〜っぷりとこの時とばかりに、見た。

千代ノ介の肌はすべすべで柔らかくて、恥じらうようにほんのり肌が上気して…そらもうたまりまへんで〜うっしっし、とおっさん笑いしたくなるくらいで。

下着も何もかも脱いでお互い真っ裸になって、ベッドに転がったとたん…。

恋人の顔が青くなって赤くなって全身が震えだした。最初はああ、緊張してるのか、と思ってその緊張をほぐそうと内腿やら腰やらを何度も撫でた。んがっ、古川が下半身に手をやればやるほど、東の顔色がおかしくなった…。赤くなって青くなって、薄い眉毛が上がったり下がったり、終いには汗なんぞをびっちり額に浮かべて…。

ピーゴロゴローギュルギュル…。派手な音が千代ノ介の腹から聞こえて、苦悶の表情で…。

ああ…。

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