現代物
□君の涙に虹を見た…
3ページ/30ページ
とうとう諦めて、美若のビルに足を運んだ。急に行ったら怪しまれるかとも思ったが、何せ俺はコピー屋だ。
近くまで来たからとか、何とでも言っておけばいい。腹を括った。
とにかく、会いたい。
理由はわからないけど、会いたい。
就職試験でもあがったことのない俺が、緊張の面持ちで三階に向かった。
たかが、男に会いに行くくらいで…。どうしてこう、ドキドキするんだよ。
俺、実は病気かもしれないとか、考えながらフロアを見渡した。
いない。
コピー機の所かも?と思って「あらどうしたの〜」の声に愛想良く「近くまで来たもので、見に寄りました」とか答えつつ歩いた。
ところが、ココにもいない。何処に行ったんだろう。
隣のデスクの内海さんに聞いても、知らないと素っ気ない答えだった。
東の顔が見れないんじゃ、何のために来たのかわからない。
落胆を隠してにコピー機をチェックして、それじゃあと声をかけて総務から出て行った。
総務をまわって戻ろうかと思って、ふと手を見るとインクがついていた。
汚れたのも気がついてなかった。
やれやれと息を吐いて、男子トイレに入った。
すると、何か声がした。
小さな子供の泣き声。
こんな所で子供?
何事も答えを求める俺は、音のする方へと入っていった。
男子トイレの一番奥。
そこには、なんと!!
ドアを開けて洋式トイレにちょこん、と腰掛けてトイレットペーパーを手に、ぐすんぐすんと泣いていた。
女じゃあるまいし…というか最近の女は、泣かないか。人前で泣くもんな、同情ひくために。
男が泣くなんて、と呆れて物が言えない。本泣きしてるし。ハタチ越してるのに。
「うっ…くっ…」
ああ、鬱陶しい、鬱陶しいっ。
クソ男のくせに…しかもいい年こいて、泣くんじゃねえ!と俺は怒鳴ろうとして、奴の顔を見た。
大きな瞳いっぱいに涙を潤ませ、頬を赤くしている…。口惜しそうに唇を噛み締めて。
か、かわいい…。
かわいいのだ、泣き顔が。今まで見た、どんな女の表情よりも。
ぐっと俺の心臓と股間を直撃した!!
女の時はびくともしなかったのに。
男の泣き顔に…欲情した。もっと泣かせたい、許してと言わせたい。
そう思ったのだ。不覚にも…。
この顔が見たかったんだ、俺は。
かわいいと思った瞬間に、俺は奴を抱きしめていた。
思いもよらなかったんだろう、ぽかんと目を開けて俺を見ている。ああ、チクショウそんな顔もかわいい。
涙で潤んだ瞳がきらきら、プリズムが見えて虹のようだ、なんてクサイことまで考えてしまうあたり…かなりキテる。
理路整然としていて、明解な俺の頭脳が…。
不可解な感情と欲望を感じている。こいつに…しかも男の。
「お前のことが気になってここんとこ、寝付けないんだよ!」
「…えっ?何を…」
「俺だって、何でだか、わからんのっ!でも…」
頭の良い俺でもわかんないことはあるんだって。お前には、態度でないと…。
仕方ないか。
小さな顔を両手で挟んで上を向かせて、熱い目で見つめた。
それでも、ドン臭い東は首を振る。
わからない、と喘ぐ口唇に、俺の唇を重ねた後「お前、かわいい」と正直に告白した。
END.