現代物

□君の涙に虹を見た…
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とうとう諦めて、美若のビルに足を運んだ。急に行ったら怪しまれるかとも思ったが、何せ俺はコピー屋だ。

近くまで来たからとか、何とでも言っておけばいい。腹を括った。

とにかく、会いたい。

理由はわからないけど、会いたい。
就職試験でもあがったことのない俺が、緊張の面持ちで三階に向かった。

たかが、男に会いに行くくらいで…。どうしてこう、ドキドキするんだよ。

俺、実は病気かもしれないとか、考えながらフロアを見渡した。

いない。

コピー機の所かも?と思って「あらどうしたの〜」の声に愛想良く「近くまで来たもので、見に寄りました」とか答えつつ歩いた。

ところが、ココにもいない。何処に行ったんだろう。

隣のデスクの内海さんに聞いても、知らないと素っ気ない答えだった。

東の顔が見れないんじゃ、何のために来たのかわからない。

落胆を隠してにコピー機をチェックして、それじゃあと声をかけて総務から出て行った。

総務をまわって戻ろうかと思って、ふと手を見るとインクがついていた。

汚れたのも気がついてなかった。

やれやれと息を吐いて、男子トイレに入った。


すると、何か声がした。

小さな子供の泣き声。

こんな所で子供?

何事も答えを求める俺は、音のする方へと入っていった。

男子トイレの一番奥。

そこには、なんと!!

ドアを開けて洋式トイレにちょこん、と腰掛けてトイレットペーパーを手に、ぐすんぐすんと泣いていた。

女じゃあるまいし…というか最近の女は、泣かないか。人前で泣くもんな、同情ひくために。

男が泣くなんて、と呆れて物が言えない。本泣きしてるし。ハタチ越してるのに。

「うっ…くっ…」

ああ、鬱陶しい、鬱陶しいっ。

クソ男のくせに…しかもいい年こいて、泣くんじゃねえ!と俺は怒鳴ろうとして、奴の顔を見た。

大きな瞳いっぱいに涙を潤ませ、頬を赤くしている…。口惜しそうに唇を噛み締めて。



か、かわいい…。

かわいいのだ、泣き顔が。今まで見た、どんな女の表情よりも。

ぐっと俺の心臓と股間を直撃した!!

女の時はびくともしなかったのに。

男の泣き顔に…欲情した。もっと泣かせたい、許してと言わせたい。

そう思ったのだ。不覚にも…。

この顔が見たかったんだ、俺は。
かわいいと思った瞬間に、俺は奴を抱きしめていた。

思いもよらなかったんだろう、ぽかんと目を開けて俺を見ている。ああ、チクショウそんな顔もかわいい。

涙で潤んだ瞳がきらきら、プリズムが見えて虹のようだ、なんてクサイことまで考えてしまうあたり…かなりキテる。

理路整然としていて、明解な俺の頭脳が…。

不可解な感情と欲望を感じている。こいつに…しかも男の。


「お前のことが気になってここんとこ、寝付けないんだよ!」

「…えっ?何を…」

「俺だって、何でだか、わからんのっ!でも…」

頭の良い俺でもわかんないことはあるんだって。お前には、態度でないと…。

仕方ないか。

小さな顔を両手で挟んで上を向かせて、熱い目で見つめた。

それでも、ドン臭い東は首を振る。

わからない、と喘ぐ口唇に、俺の唇を重ねた後「お前、かわいい」と正直に告白した。









END.
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