現代物
□君の涙に虹を見た…
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どうしよう…どうすればいい?
だって、洋子さんはお仕事で来られないし、姉さんは入院してるし…。
ううっ俺どうすればいいの?!
半べそで、赤ん坊と一緒に泣きたい気持ちだった。
だが辛うじて泣かなかったのは、いつも古川から俺の前以外では絶対に泣くな!ときつく言われているからだった。ううっぐっと嗚咽を飲み込んで千代ノ介は、加代子の方へ意識を向けた。
まずは加代子を泣きやまさないといけないもんっ。でも、でもどうやって…?
オムツかなと思い、恐る恐る暴れる足を抑えて、オムツを見てみたが濡れてはいない。気持ち悪くて泣いてるんじゃない…。お腹が減って?お母さんが出かけるときにミルクは上げていた…。
じゃあ、何だろう。ああ俺どうしたら…いいの?
泣き暴れる加代子をベットに寝かせて、どうしようと部屋を歩き回ること数分。
尻ポケットに入れていた携帯が震えた。音が鳴るとうるさいので、古川に頼んでバイブレーション機能に設定してもらったのだ。
はっと思い当たって、電話に出た。
「はい!もしもし…あっ、俺……あのっ…ど、どーしよう。加代子の様子が変なの!」
突飛な千代ノ介の言葉にももう慣れたのかあまり驚かない古川だった。こいつのすっとんきょうなのは今に始まったことじゃない…。それは身を持って知っているのだ。
「…あ?加代子…誰だそれは…」
「俺の姉さんの子供で…オムツも違うしミルクも違うし何でか泣いてて…震えてて…」
「…赤ん坊預かってるのか…お前がか…震えてる?…そこ、誰もいないのか」
「…うんっ。お、俺だけなの…俺…お…」
「分かった。俺がそっちに行く東、落ち着け。大丈夫だからな、待ってろ」
十五分後車を飛ばした古川が東の家のインターファオンを押していた。電話の後、取る物も取り合えずいつもはきちんとしている古川の頭髪もやや乱れている。
玄関口で出迎えた千代ノ介の顔を見て、開口一番。
「…東、で赤ん坊は?」
「やっと泣きやんだんだけど…うう」
赤ん坊と同じように瞳を潤ませて半べそ状態である…。リビングに移動しながら赤ん坊の様子を説明する東は、古川の顔を見てホッとしていた。安心できる人が側にいるのだ。
「…今度は熱があるのか、すごく顔が赤いの。どうしよう、俺っ…」
真面目な顔で東の真剣な表情を見ていると、話が頭の中を通り過ぎていく…。どうも話の内容よりも、東の顔に意識が行ってしまうのだ。
こんな時に不謹慎だと思いつつ、半泣きで濡れた瞳でこちらを見る東って、ソソるなぁ…。そんなことをうっかり考えてしまう二十五才の男だ。自分でも大概鬼畜だと反省しながら古川は、真っ赤な顔で荒い息を吐く赤ん坊を抱き寄せた。
「泣き出してどん位か分かるか?」
「…え…わかっ…な…」
「そっか、泣き疲れたんだな…ちょっと白湯かミネラルウォーター持って来い」
「は、はいっ」
ぴょこたん、と立ち上がって、東は台所まで走った。幸い白湯を毎日作ってあるので、すぐにコップに入れて持って行く。
とてとて……とコップを運んで来た。
よし、と言ってコップの水を口に含んで古川は赤ん坊に、口移しで水を飲ませた。それを少しづつ泣き喚く加代子に何度も根気良く…。
すると加代子は何度かむせた後、ゴボッと、何かを口から吐き出した。
吐き出したものを手にとって見ると、小さなボタンだった。ブラウスやカッターシャツの物に見える。目が覚めて立ち上がってベッドの隙間に落っこちて、絨毯に落ちていたボタンを誤って飲んだんだろうと古川は思った。
死にそうな顔をしている恋人に、説明してやる。
「…たぶんなお前がどっかよそ見してた時にでも、口にボタンを飲み込んだんだよ」
「じ、じゃあ別に病気だとか、そんなんじゃないんだっ?」
ホッとした表情で嬉しそうに瞳を潤ませて、赤ん坊を見つめている。よっぽど気を張っていたのだろう。そんな東の様子がいじらしい。
「ああ、たぶんな。吐き出したから大丈夫だと思う…何だったら、病院行くか?」
「うんっ!心配だから行っておきたい」
「…わかった、じゃあ準備しろ。保険証とベビー服とあと……」
こまごまと必要な手帳やら書類を東に持ってくるように指示する。