現代物

□君の涙に虹を見た…
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<<君に好きと言ってから。>>





陰の風が吹き滅の雨が降る、コレを人は陰々滅々という…って俺は何を暗いこと考えてんだか。

取引先の美若食品株式会社勤務の頼りな〜いオバカの恋人、東千代ノ介の顔を見ながら深いため息をついた。

古川緑雨二十五才と三ヶ月。会社では有能サラリーマンとしての顔を、今はすっかり崩してひたすら甘い空気をまとっている。


「ああ、ほら口唇のはじについてるぞ、チョコ」

一心不乱にハ〜ゲンダッツのアイスを頬張る姿は相変わらずというか、あれで二十八にもなるのかと思うと…。

いつまでたってもコマなしの自転車に乗れない、子供を心配する母親の気持ちになる。

いや、俺は男だけど、しかも東よりも二才も年下だけど…。どう見たって俺が保護者で、あいつが子供に見える。



この前の休みに東にせがまれて連れて行った、某ひらかたパークのお化け屋敷でもあのバカはぶっ倒れたし…。

普通女子供だろうがあーゆうの見て、倒れるのはさー。それを大の男が悲鳴上げて泣きじゃくって、気絶だ。

トリップしてたお前はいいだろうよ。何もわかんなくって、一人残された俺は?もう、顔から火が出るってのを経験した…。

あーゆうのは、二度と経験したくない夏の苦い思い出だ。

しかも渋い顔の係員に「お兄さん、困りますよ〜。ちゃんと弟さんを見てもらわんと。入口に小さなお子さんは入れませんってしてありますやん」と注意までされて。

弟って、小さなお子さんって…何も言えず俺は「すみません」とただただ頭を下げて謝って、伸びた東を抱えて事務室を後にした。

その後は目が覚めるまで日陰のベンチで東の頭を膝に抱えて、ウチワで扇いでたっけ…。兄弟に間違われるなんて複雑な心境だった…。



第一俺、こいつと付き合いだしてから、とことんついてないような気がする。気のせいだといいんだけど…。



俺のため息にも気づかず、東はニコニコと新聞のテレビ欄を見て、アニメに変えている…。東、お前一体幾つだよ?

「やたっ、ドラえもん。今日は始めから見れるんだっ」



アイスを食べ終わって、ご機嫌な東はいつものように俺の膝の上に座るべく、ベッドから移動した。

狭い俺の部屋はごく限られた家具しか置いてない。テーブルとベッドと低めのソファと棚(テレビデオを置いている)この三点で充分生活できる。

折りたためるテーブルは、毎晩の食事の配膳台にまた仕事を持ち帰った時は、パソコンデスクへと早変わりする。

窓際にベッドを置いて両脇に残りの家具を配置しているので、ソファは壁にくっ付けてある。腰掛けてテレビを見る形になるのだが、小さいソファに男二人が横に並んで座るのは、かなり苦しい。いくら東が小さくても、だ。

そのため、東は俺の上に自然と腰を下ろすようになった。若干座高も高くなって、棚上のテレビが見やすいのも原因かもしれない。東は俺よりも二十センチ近く身長が低いから。いつもだったら、にっこり余裕の笑顔で膝の上に抱きかかえてやるのだが、俺の忍耐袋も限界に達していた。

最近は、膝上にある意外なほどに肉付きのいい丸い尻の重さや、小さく揺れる薄い背中が間近にあるのが辛い。

手を伸ばせば届くのに、今だ手が出せないでいる…。

もどかしい思いで過ごす夜。それは今晩も風呂場でマスターベーションに耽ることを意味し、情けなくて涙が出てくる。



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