現代物

□いかれこれ
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延々と鳴り響く目覚ましの電子音の攻撃を阻止するために、寝不足で腫れて重たい瞼を持ち上げた。

何が「ちびっとだけやねん。ちびっと」だ。腰をいわすことがちびっとなのか?

昨晩、耳元でしつこく囁かれて仕方なく応じた。それも、軽いので明日に堪えるようなことはしないと言うからなのに…。

一晩ずっとヤりっぱなしの、どこが軽いねん。痛む腰をさすりながら、晴之は疲労の原因に怒鳴りたい衝動にかられた。

何故なら、今日は仕事で裸になるっとお互い聞いていたのにっ!!!

隣でのんきにいびきをかいて寝ている男の頭を思いっきり、ソバガラの枕でどつきたおした。

それでも男は起きることはない。図太い厚かましい性格を物語っていると思う…。



今売出し中の若手タレントとして関西では幾つかの番組にもちらほら出演して、最近では外で顔をさされたりする。

隣で寝ている男、テルオは高校の時からの付き合いで、今現在は恋人だけでなく、漫才の相方も務めている。

元モデルという経歴を持つ男前で、ボケを担当している。

二人はテルオハルオというアナクロいコンビ名で、お笑いのマツタケ株式会社から昨年デビューしたばかりの新人だ。

心斎橋にあるマツタケ三丁目劇場で毎日、漫才やコントを若い観客にご披露する駆け出しの芸人。

自他共に認める男前のコンビ。

中学生や高校生の女の子たりから騒がれていて、おっかけに近いファンもいるくらい。

それをやっかむ先輩芸人たちから『あんなん顔だけやん、すぐに人気なくなって消えてまうわ」と陰でなく面と向って言われたりもした。

確かに今は自分たちコンビに実力は全くない。自分たちでも人気先行だと思うが、顔も実力のうちだと。

ひがみというのは男女関係なく、それは仕方がないと晴之は思っている。

「この俺の顔がええのは変えられへんもん、生まれつき男前やもん」と抜け抜けと先輩芸人たちの前で言い切る位の性格だった。

そのために足の引っ張り合いが多くて、なるべく漫才やコント以外の仕事で他のコンビとは組まないようにしてもらっていた。

ところが悲しいかな三丁目劇場に出演して手に入るギャラは、一回五百円という金額。

おまけにそれから税金やら何やらが引かれて、手元に入るのはは三百五十円。お金には厳しい会社だからきっちりとしている。

それだけでは劇場までの阪急と地下鉄の片道分にもならない、シャレにならへんわ…ビンボーで、ビンボーで。と晴之はため息をついた。

高校生やってた時の方がバイトで充分お金があった。小遣いとして月に七万は使っていたくらい…。

それが今は、親から送ってもらう米と味噌やレトルト食品で毎日を食いつないでる。臨時雇いのバイトもたまにするが、最近はバイトも競争率が高くて、割のイイのは減ってきた。といって顔をいかした水商売は、テルオが嫌がってまず無理だった。

そんなキュウキュウいっている二人に振って沸いたような話。

「おまえら、ミニアルバム出すで」

「えっ?!」

若手のコンビ四組についてる高須マネージャーからの突然の呼び出しで、事務所に集められた。

大阪ガスダイナマイト、テルオハルオ、マツグチVSコバヤシ、しゃララといったメンバーが勢ぞろいした。

何でも『今夜寄席見て』っていう深夜番組に出てる若手の中で、特に人気のある四組でCDと写真集を出すという企画らしい。

東京進出も考えているとかで、まずは目先の関西で売っとこかってというケチタケ事務所の考えそうなことだ…。

晴之とテルオは今ひとつ分からないまま、アイドルグループのバッタもんみたいな歌を、歌わされることになった。

まあ、それだけならしゃーない。何やかんや言うて結構、CDとか皆、出しているから。

下手な歌でもエコーかけたりしてもうて直したら何とかなるし。そう思って、「ええですね〜」なんて答えていたが。

「ミニアルバムには写真集が付くねん」

高須マネージャーの言葉はさらに続いた…。



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