現代物
□いかれこれ
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テルオは二枚目路線の兄貴という感じの男前で、マツタケに行く前にいたモデル事務所が泣いて行かないで、と言ったくらい有望株のモデルだった。
それをあっさりと捨ててお笑いのマツタケ事務所に入ったのは、ひとえに晴之を愛するあまりの行動だとテルオは主張するだろう。
しかも異様に、疑り深い奴で付き合って一年になるのに心配性というか、疑り深いのだ。
「卒業後はお笑いに進むつもりやねん」と高校三年の夏、進路について話す良い機会だと、熱くお笑いに対する情熱を語った…。
次の日にテルオはモデル事務所辞めて、マツタケ事務所に入った。
唖然とする晴之に、こう言い放った。
「就職先が一緒のほうがええし、俺はお前と同じ所にするつもりやったから」
さらに続けて。
「俺が目を離してたら、お前絶対に浮気する!ハル、目で誘ってるやんか」
と目いっぱい力説した。
もちろん晴之は、誘ってへんもんと反論したが、一切テルオは聞かなかった…反対に。
「お前のその伏目がちとか、上目遣いとか…もぉ全部が男を誘ってるねんって」
「…だからな、ちゃうってそんなんしてへんやん」
「お前は無意識で、やってるから余計に、タチ悪いねん。被害者続出や…俺もそのうちの一人やし…」とまで言った。
人を何か妖怪か何かみたいに…。
「俺、男やで?ちゃんとつくモンついてるんやで?」
それを何か女みたいに言い、あまつさえ惚れた欲目でそこまで言われると嬉しいというよりも、呆れてしまった。
「いや、こう〜出てるってオーラが!!」
そう言って引き下がらなかった。
何か俺のことを勘違いしてるとテルオにことあるごとに言ったが、反対に「お前は無自覚すぎる」と怒られる始末。
そのたびに「おかしいで、何で俺が怒られなあかんねん」と憤慨した。
お笑いで漫才などをする連中は、男同士の気安さやその場のノリでよく仲間内でも、マッパになったりする。
それは番組でも同じで、ノリで脱いだりまた半ケツになったり、その場の雰囲気に応じたリアクションを求められるのだ。
だから若手のテルオハルオとて同じこと。求められる笑いを、その時々に出していってこそ、次へとつながって行くのだが…。
それをテルオは「ストリップや公衆ワイセツや誘ってる」…アタマがわいてるとしか思えないことを言う。
テルオの嫉妬深さには、正直かなりまいっていた。
一昨日も、写真集のことを他のコンビと話していて、急に楽屋中に響く大声を出して。
「お前のその裸体が晒されるなんて!犯罪や扱きネタにされてまう!!」
テルオの台詞に、大阪ガスダイナマイトの遠藤と八木は完全に引いていた。
そりゃそうだろう…。完全二枚目男前のテルオが突然立ち上がって、涙浮かべて吐いた台詞がそれかと思うと…。
「あかんわー、もう身の危険を感じるわ」
とか訳の分からないことを言ってぐるぐると楽屋を歩く姿は…どうみてもイタイ。イタ過ぎる…。
他のコンビもその話を聞いたのか、その日は舞台でテルオハルオは浮いた。もう少し自覚してくれと思ったが、そのことを言うとまた怒られるので我慢したが…。
いちおー男前で売ってるし、イタイキャラやない。世間的には、超かっこええ二枚目系って見えてんねんし。晴之は軽めで女好きvが売りで、男前で奥手なテルオと正反対が見所。
それがなぁ〜。
この!この顔で!!言うねんなぁ。好きや〜とか愛してるとか、もう鳥肌もんの言葉を。
そういえば、この前も…。
常連ファンに追いかけられてどうしようもなくなって、仕方なくサインや写真に付き合っていた。
図に乗ったのか一人が「ハルちゃんと腕組みたい〜v」と言い出したのだ!!当然テルオはみるみる形相が変わって…。
「おい、そこのブサイク。俺のハルオと腕組みたい〜ぃ?ふざけんなっブサイクが移るやろ」
しーんと辺りは水を打ったように静かに凍りついた。
女の子はひ〜って泣き出して「ええやんなぁ、腕組むくらいなら」晴之がフォローを入れたら…。
「…へ〜〜〜ぇ、ハルはこおゆう、ブッサイクがええん。知らんかったわ」
地を這うような低い声で…失禁するほど恐かった。本当に、恐かった。女の子たちは泣きながら走り去った…。
それから二度と劇場近辺で見なくなったのは言うまでもない。
あのテルオを見たら、近寄れなくなるわな〜と多少同情してしまう晴之だった。
もちろん、そんな事をおくびにも出さなかった。晴之もその晩のテルオの反省するまで寝かさへんお仕置きに懲りていた。