現代物

□欲しがりません、勝つまでは…。
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あれは確か、入学式翌日のことだった。



地元では国公立大学の進学率トップといわれる東野高校を、上田は見事に合格した。校舎もグランドも体育館も何もかもが綺麗で設備も整っている、公立中学校とは雲泥の差。恵まれた環境であるはずが、何の因果か上田の希望したコースは男女が別々に授業を受けるクラスという…。入学式の時から左右、前後と男だらけの男子校状態だった。



だから…と言い訳をするわけでもないが、男子クラスの不運を嘆く野郎どもの視線は、美少女めいた容姿を持つ、鮎川和泉に集中した。

今よりももっと幼い、子ども子どもした顔つきで、皆が男子クラスなのに女子が混じっている、と騒ぎ立てるのも分かるほど、本当に綺麗だった。

掃き溜めに鶴とはきっとこういうのをいうのだと、言葉もなく上田は見惚れていた。鮎川に関心があったのは、上田だけではなかった。むさ苦しい男子クラスにおいて一服の清涼剤的容姿の持ち主の気を惹こうと、あれやこれやと皆がちょっかいを出していた。



だが鮎川は話し掛けられても、揶揄されても、表情を変えるでもなく冷たく一瞥するか、せいぜい一言二言い返すだけ。まったく誰も相手にしなかった。

そんな態度を取られれば…かわいさあまって何とやら。なまじ顔が良いだけに、お高く止まっていると受け取られて余計に絡まれてしまうのでは、と。他人事とはいえ、上田は鮎川の要領の悪さに気を揉んでいた。



案の定、話し掛けても顔も向けない、おまけに迷惑だといわんばかりに顔を顰めている鮎川の態度に我慢出来なかったのだろう。



「何や人が話し掛けとんのに、知らん顔して!ちょっと顔が綺麗からってすかして!むかつくっ。女男、オカマ!」

県下一の進学校で、上田たちのコースは国公立コースT類の、一応は偏差値六十八前後の選ばれた人間のはず…。本当に試験を受けたのかと、疑いたくなる言葉だった…。

無視された悔しさが言わせた言葉だろうが…それを聞いたとたん、すーっと鮎川の顔から表情が消えた。そして、どかっと座ったまま前の席を蹴り上げて、ゆらりと立ち上がった姿は迫力満点だった。


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