現代物

□1989
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「なぁ、こいつまあまあ見れる顔してねえ?」

「…あぁ?男だぜぇ…。いくら綺麗でも…」

「けどよぉー、見てみろよ。乳首ピンクだぜ、ピンク!」

「女ばっかで飽きてきたしぃ?」

「そうそう。お試ししてみますかぁ」

ゲラゲラ笑う声と共に、ごくっと喉が鳴る音が合図になったのか、男たちのぎらつく視線が一斉に俺の体に向けられた…。

「い、嫌だあっ。たすけっ…うあっ!…ぐううっ……」



顔を殴られじんじんと痛む頬は腫れ上がり、引き裂かれた衣服がわずかに足や腕にまきついていた。砂浜に転がされて両手両足を押さえつけられ、上に圧し掛かられた。

肉の薄い尻に突き立てられた性器は俺が悲鳴を上げるたび、呼応するかのように激しく動いた。ろくに慣らされもしないで突っ込まれた肛門はすぐに切れ、ぬるりとした感触が太腿を伝う。
一人目がぶるっと体を震わせ中で射精すると、次の男が待ち構えていた。次から次へと尻へと突っ込まれ、火箸を突っ込まれたような痛みと圧迫に泣き喚いた。興奮した男が俺の髪を掴み、性器を口に捻じ込んできた。腹と口とを思う様突かれて、苦しくて苦しくて、涙が止まらなかった。

いつしかプライドをかなぐり捨てて俺は必死で哀願していた、…が、その願いが聞き入れられることはなく、男たちの荒い息と、吐き出された精液に混じった血の匂いが、辺りを包んだ。苛まれ羞恥と痛みに苦しめられた俺の喉はとうに潰れ、ひゅうひゅうと洩れた息のような声で、必死でその場にいない男の名を叫んだ。
置いていかれたんじゃない、置いていかれたんじゃない。助けを呼びに言ったのだと自分に言い聞かせ…俺は気を失った。



ホテルの従業員に発見されたのは、それから四時間後のことだった。全身に擦過傷と内出血…脱肛、半死半生で病院に担ぎ込まれ、二日目になってようやく意識を取り戻した。瞼を開けた俺を待っていたのは、気忙しげな看護婦と医師の顔だった。

一日経っても、三日経っても…昭彦は病室に現れなかった。四日目の朝、二人の宿泊先のホテルに電話を掛けると、既に引き払った後だった…。男に強姦された『男』の『被害者』として病院では腫れ物に触るように扱われ、周囲の同情と好奇の目が辛くて、起き上がられるようになると逃げるようにして病院を退院した。





それが今から三年前の出来事で。

俺は体が元通りになるまでの半年間は、実家から遠く離れた親戚の家で養生した。もちろん、男に強姦されたことは誰にも言わなかった。ただ、数人の若者に絡まれて大怪我をした、とだけ言って。昼間でも数人の若者がたむろしているのを見ると、決まって夜はうなされた。何度も何度も夢の中で俺は昭彦に置いていかれて、男たちに輪姦される、そんな悪夢を…。ようよう勝手に慣れてきた職場を、俺は一年間休職せざるをえなかった。一年後復職を果たしたが、後輩たちと同じに一から仕事を覚えるのは正直辛かった。それに病院に戻ればまた、昭彦と顔を合わせる…が、その心配は杞憂に終わった。昭彦は俺が大学に戻る前に、逃げるように系列の病院へと移動したのだ…。逃げ足だけは早い男だと、俺は医局に張ってある張り紙を見て、小さく笑った。

仕事が忙しいと、自分の身に起こったことを一時でも忘れられた。勤務先の病院はむろんだが、俺の地元の病院に行けば、どこで見られているか分からない。研修医の少ない休みをやり繰りして、県外まで出て傷ついた肛門の治療に通った。泌尿器科とはいえ、医師が激務であることは変わりなくて、中々傷は癒えなかった。それでも一年二年と経ち、普通に排便ができるようになり、夢でうなされる回数も減った、そんな頃だった。



医局で看護婦たちが話しているのを聞いたのは。



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