幻想物

□砂上の華
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「…くっ、人が下手に出ていれば…」
男の表情が一変した、ぎらぎらとした欲望と狂気の目。身の危険を感じたネイは店の奥へ逃げようとしたが、男の動きの方が早かった。

ネイが顔面に熱い衝撃を感じた時には、もう男に押し倒されていた。圧し掛かって体中をまさぐる男への嫌悪と吐き気、重さにネイは拳骨を振りまわして力の限り抵抗した。力で体の自由を奪われる苦痛、そして男であるのに男に屈服させられる屈辱…を再び味わうのは、絶対に嫌だった。
しかしでっぷりとネイの倍以上は太った男と、ネイとでは力の差は歴然としていた。

暴れるネイの頬を何度か打つと、男は馬乗りでネイの動きを封じた。分厚い手の平に打たれ、頭はぼうっとして手足に力が入らない。息苦しさとじんじんとする痛みで、ぐったりとして動かないネイに、男は満足そうに笑った。
「…もったいぶりおって…。店を辞めてもうどれくらいだ…?体が疼いてしょうがないくせに…それとも、男を引っ張り込んでいるのか…。根っからの男娼のくせに。どれ…わしが確かめてやる」

男はネイの白い長衣を捲り上げて、下衣を力任せにずり下げた。剥き出しになったネイの白い下肢を撫で回し、その滑らかな肌触りに好色な笑いを浮かべて、自らの下衣の紐を緩めた。すでに男の下半身は臨戦体勢になっており、ネイの腰を抱え貫こうと固まりを押しつけた。潤いのないそこに押し当てられた感触と、男の荒い呼吸にネイは顔を青くする。男の激情のまま貫かれれば、体がどうなるか…。快感も何も入念な下準備をしていればこそで、苦痛ばかりで下手をしたら半月は起き上がれない…。
男に優しくしてくれるように懇願するか、それともあらん限りの力で抵抗するか、選択肢は二つ。しかしこういった場合、懇願しても男を煽るだけだという事を過去体験していたし、何よりネイの自尊心が許さなかった。

生き延びる為だからと心を誤魔化して、己が境遇に目を瞑ってきたのだ。しかしもうそんな誤魔化しはしたくない。再び体を自由にされる事は、耐えられない。…二度と、気持の伴わない行為などしたくない。渾身の力を振り絞ってネイは男に抗った。
その結果、怒り狂った男に頬を何度も打たれ、じんやり口の中に鉄臭い味が広がった。体中のあちこちを打ったようで全身の痛みと、圧し掛かる男の重み。不意に瞼の裏に浮かんだ男の顔に…ネイは一筋の涙を流した。

二度と会えない…。ネイがネイである以上、会ってはいけない男だった。
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