上×一は
□深く落ちて
1ページ/9ページ
深く、深く、君を想うこの気持ちが、落ちていく。
深く落ちて
「小平太」
は、とする。
目の前には黒装束に身を包んだみんながいた。
仙蔵が私の名を呼んだらしい。
口元まで隠されていて表情は分からないはずなのに、不機嫌な顔に見えた。
月明かりで仙蔵の目がキラ、と光った。
「これから敵地に忍び込むのに…まだ、」
「大丈夫だ」
そうだ。
今から、実習だ。
気を取られていたら、大怪我も免れない。
「…なら、いいが」
「しかし、遅刻は許されんぞ」
しぶしぶ、と納得する仙蔵の横で、文次郎が厳しく言い放つ。
あれから、二人が去るまで息を殺して留まっていた。
そうしないと、今にも叫びだしてしまいそうだったから。
気持ちが落ち着くまで、じ、としていたのだ。
だから、遅れてしまった。
「とりあえず、急ごう」
場を引き締めるように伊作が言った。
私も頭の中のごちゃごちゃを振り払うように、ぱし、と頬を叩く。
それを静かに見ていた長次を、そのときの私は気付かなかった。